
研究
内服薬により難病指定の糖尿病一亜型の治療に成功 – 脂肪萎縮性糖尿病に対する新たな治療選択肢を提示 –
東北大学病院糖尿病代謝科の今井淳太講師、川名洋平医師、片桐秀樹教授らのグループは、糖尿病の内服薬であるSGLT2阻害薬によって難病に指定されている脂肪萎縮性糖尿病が著明に改善したことを報告しました。本報告は脂肪萎縮性糖尿病に対するSGLT2阻害薬の効果を示した世界初の報告で、本疾患に対する有望な新しい治療選択肢を提示するものとして大いに期待されます。
本研究成果は、2017年3月21日Annals of Internal Medicine誌(米国内科学会の学会誌。IF:16.593)に掲載されました。
【研究のポイント】
- 脂肪萎縮症は先天性あるいは薬剤などにより後天性に発症し、重症かつ通常の治療では改善が難しい糖尿病を呈する疾患である。
- 脂肪萎縮性糖尿病に対して新規経口糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬を投与したところ、脂肪肝が減少し、コントロール不良な糖尿病、インスリン抵抗性が著明に改善した。
- 比較的安価な経口薬である本治療法は病態改善メカニズム、医療経済、治療アドヒアランスの各面から、脂肪萎縮性糖尿病に対してきわめて有用であり、新しい治療選択肢として期待される。
【研究内容】
難治性の糖尿病を呈する脂肪萎縮症に対して糖尿病の経口治療薬であるSGLT2 阻害薬を投与してその病態を著明に改善することに成功しました。脂肪萎縮性糖尿病は先天的あるいは AIDS の治療薬などによって後天的に発症する重症かつ難治性の糖尿病の一種です。通常の糖尿病治療では改善が難しく、厚生労働省から難病にも指定されています。脂肪萎縮症は本来脂肪組織から分泌される善玉アディポサイトカインであるレプチンなどが減少することにより、脂肪肝などの著明な内臓脂肪蓄積、インスリン抵抗性、重症糖尿病を呈します。皮下注射によるレプチン補充療法が有効な治療法ですが、高価であり、また皮下脂肪がないことによる注射時痛で治療継続が困難な場合があります。
先天性全身性脂肪萎縮症は、脂肪萎縮症の中でも特に重症な糖尿病を呈します。長期にわたってコントロール不良な糖尿病が持続していた先天性全身性脂肪萎縮症に対して、SGLT2 阻害薬であるイプラグリフロジンを投与したところ、脂肪肝が減少し、糖尿病、インスリン抵抗性が著明に改善しました。SGLT2 阻害薬は脂肪燃焼による内臓脂肪減少効果が報告されており、本例でもそのことがインスリン抵抗性、糖尿病の改善につながったと考えられます。通常診療で用いられる保険適応となっている治療であり、比較的安価に行うことができ、また、内服薬であることから注射時痛もありません。これらのことから本治療は、脂肪萎縮性糖尿病に対して、病態改善メカニズム、医療経済、治療アドヒアランスの各面からきわめて有用であり、有望な治療選択肢となることが期待されます。

図1 症例のHbAlc経過
以前から行われていた内服薬治療のみでは、長期にわたってコントロール不良な糖尿病が持続していた先天性全身性脂肪萎縮症に対して、SGLT2 阻害薬であるイプラグリフロジンを追加投与したところ、脂肪肝が減少し、糖尿病、インスリン抵抗性が著明に改善しました。
【用語説明】
注 1. SGLT2 阻害薬:
2 年前から日本で使用可能になった経口糖尿病治療薬。尿中へのブドウ糖排泄を促進することにより血糖値を低下させる作用を有する。
注 2. インスリン抵抗性:
インスリンが効果を発揮しにくくなる状態のこと。肥満や内臓脂肪蓄積などによって引き起こされる。
注 3. アディポサイトカイン:
脂肪組織から分泌されるホルモン。代謝に良い影響を与える善玉アディポサイトカインとしてレプチンやアディポネクチンが知られている。
注 4. HbA1c:
糖尿病状態の指標。数値が下がると糖尿病が改善したことを示す。
【論文題目】
Title: Sodium–Glucose Cotransporter 2 Inhibitor Improves Complications of Lipodystrophy: A Case Report
Authors: Yohei Kawana, Junta Imai, Shojiro Sawada, Tetsuya Yamada, Hideki Katagiri Journal: Annals of Internal Medicine
日本語タイトル:SGLT2 阻害薬は脂肪萎縮症による代謝障害を改善する 著者:川名洋平、今井淳太、澤田正二郎、山田哲也、片桐秀樹
【問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学病院糖尿病代謝科
講師 今井 淳太(いまい じゅんた)
電話番号:022-717-7611
Eメール:imai*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道担当)
東北大学病院広報室
電話番号:022-717-7149
ファックス:022-717-8931
Eメール: pr*hosp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)