いとし(医と歯)の関係とは
口は「食べる」「呼吸する」「話す」といった、人が健康に生きる上で欠かせない重要な働きを持ちます。
さらに、「歯の丈夫な人は元気で長生きする」と言われており、口の健康が全身の健康に影響することは昔から知られていました。
しかしながら、そのことが科学的に証明されるようになったのは最近のことです。
そこで近年、「患者さんに対して、医科と歯科が協調することで総合的な治療を提供する」、いわゆる「医科歯科連携」の重要性が注目されています。
東北大学病院では、2010年1月より医科部門と歯科部門が同一の建物内にあり、医科と歯科の垣根のない良好な連携体制のもと、双方の専門性を融合した様々な診療や研究を行っています。
そこで、東北大学病院の医科歯科連携の実際を「愛し(医と歯)の関係」のキャッチコピーのもと皆さんにご紹介することで、患者さんや地域の皆さんにとって「愛し(医と歯)の病院」と思っていただけたらと考えています。
連携事例
周術期口腔機能管理
毎日行われている
周術期口腔管理カンファレンスの様子
近年、全身の手術前後の口腔清潔を行うことで術後合併症の発生が抑制できることが明らかとなり、手術を受ける患者さんに対する「周術期口腔機能管理」は国策として推進されています。当院歯科診療部門では、迅速に入院患者の口腔管理に対応出来る体制を整備するために、全ての医科部門診療科の入院患者に対する歯科への紹介窓口として平成27年に「周術期口腔支援センター」を設置しました。令和3年からは、増え続ける医科部門からのニーズに対応すべく、「周術期口腔健康管理部」へと部門名称を変更し、歯科部門の各診療科からの診療協力の充実化、専任歯科医師の複数配置といった診療体制の拡大を図ることで医科歯科連携の更なる強化に努めています。また、化学療法や放射線治療等のがん治療に伴う口腔内有害事象の予防に関しては、「口腔支持療法科」と密な連携体制を構築し対応しています。
東北大学病院では、歯科部門が一体となっての口腔管理を行うことで、患者さんが様々な医科的治療を安心して受けていただけるようにサポートしています。
唇顎口蓋裂センター
月1回実施している
センターカンファレンスの様子
唇顎口蓋裂センターでは、口唇裂・口蓋裂患者をはじめとした先天性顎顔面疾患に対して、出生前カウンセリングから成人期の最終修正手術までを医科歯科が連携して一貫治療を行っています。
本センターは医学部附属病院と歯学部附属病院の統合による新外来棟の設置を契機に2010年に発足しました。設置に際して、形成外科・顎口腔機能治療部・歯科部門言語治療室・小児科を隣り合わせに配置し、耳鼻咽喉・頭頸部外科を含めた関連科が同日(火曜日)に専門外来日を置いています。これにより医療従事者間のより密な連携、つまり必要時に複数科の専門医が臨機応変に患者さんのもとに集まり、包括的に対応することができています。また、全国に先駆け臨床心理士を 専門外来に常駐させ患者のサポートを行っていることも本センターの特徴です。
そして、月に 1 回診療後に各科医師が集まり(現在はハイブリッドで)センターカンファレンスを実施しています。カンファレンスでは各々の症例の評価に留まらず、治療後5年経過した症例の評価報告を各診療科が毎年行いフィードバックすることで、より対称性を得られる口唇裂手術や、上顎の成長を阻害しにくい口蓋裂手術、小児の上顎成長を促す新たな矯正歯科技術など多くの知見が得られています。患者さんの笑顔のためにさらに連携を深めていきたいと考えています。
嚥下治療センター
左:口腔の機能への対応(歯科)
右:嚥下造影検査(医科)
2019年7月に設置された嚥下治療センターでは、患者さんが安全に口から食べること(摂食嚥下)を支援する目的に、医科、歯科が連携して活動しています。摂食嚥下には口、のど、呼吸ならびに全身のはたらきが関わっています。とりわけ、口とのどは嚥下の際に連続して働くことから、患者さんの両方の部位の障害を充分に理解して治療する必要があります。
本センターでは、口の治療を行う歯科医師、のどや全身の治療を行う医師、さらにそれを支援する看護師、言語聴覚士、薬剤師、管理栄養士など病院スタッフが週一度のカンファ レンスを通して患者さんに関する情報交換を行い、治療方針と担当者を相談しており、医科歯科連携を中心として多職種が適切に協力する摂食嚥下障害の治療を進めています。 初回の診察窓口は歯科ならびに医科(耳鼻咽喉・頭頸部外科)の二カ所におき、多くの患者さんに相談していただくことを目指しています。現在では年間約 600 名の患者さんを 診察しています。
睡眠医療センター
睡眠医療センターの外来窓口
睡眠障害は、生活習慣病、心不全、緑内障などを悪化させたり、小児の成長や学習、成人の精神神経症状、そして高齢者の認知行動などに影響を及ぼしたりします。睡眠医療は、小児から成人まで幅広い世代に、様々な疾患を有している方が対象となることから、関連診療領域での検査・診断・治療を集約化し、包括的に睡眠障害に対する医療を提供する目的で、2020年10月に睡眠医療センターが設置されました。
睡眠医療において医科と歯科との連携は重要です。睡眠中に呼吸が何回も止まる閉塞型睡眠時無呼吸症候群は、代表的な睡眠障害疾患ですが、その原因には、歯列、咬み合わせ、顎や舌の位置などが影響しています。顎や舌の位置を検査し適切な口腔内装置を適用することで症状が改善することも多く、歯科の役割は重要です。また、歯科疾患である歯ぎしり(ブラキシズム)は、睡眠障害の原因となることが知られており、睡眠障害検査において、歯科診療が不可欠です。睡眠と口腔内機能との関係は十分明らかになっていないところもあり、医科・歯科の密接な連携は、今後の睡眠医療の進歩に寄与することも期待されています。
頭頸部腫瘍センター
東北大学病院では、首から頭に生じる頭頸部がんの全患者さんを、多くの診療科と部署が連携する頭頸部腫瘍センターで治療しています。頭頸部がんのうち約27%は舌がん等の口腔がんであり、多くの早期がんでは歯科が、進行がんでは耳鼻咽喉・頭頸部外科が主治医となり、放射線診断科、放射線治療科、形成外科、腫瘍内科、麻酔科、緩和医療科等が加わり「医科歯科連携」の治療を行っています。
口腔がんの治療では、医科と歯科が各診療科の長所を活かして連携し、治療前の診察と口腔ケア、手術・放射線治療・化学療法による根治治療、治療後のリハビリテーション、ならびに根治治療が難しい場合には緩和療法を進めています。当院の頭頸部腫瘍センターでは医科歯科連携を緊密に行い、口腔がんの患者さんの生命を救うことと、「話す」「食べる」といった生活に必要な機能を保つことを両立することに努めています。
医科歯科連携により、コンピューター支援の下顎切除手術を実施した口腔がんの患者さん。
癌の根治とともに、治療後の整容と咬合がいい状態に保たれている。
SpringX 超学校× 東北大学病院 特別講座を開講しました
東北大学病院と一般社団法人ナレッジキャピタルは、共催でSpringX 超学校「人生100 年を生きる ~愛し(医と歯)が支えるあなたの健康寿命~」特別講座をYouTube にて生配信しました。
顎口腔画像診断科 科長 飯久保 正弘教授、耳鼻咽喉・頭頸部外科 科長 香取 幸夫教授が登壇し、口と全身との関係についてわかりやすく解説するとともに、東北大学病院が行っている愛し(医と歯)の連携について紹介しました。
当日の模様は、下記よりご覧いただけます。