研究
妊娠中の血中サイトカインと産後うつとの関係を発見
産後うつ病は産後1ヵ月の母親に現れる抑うつ症状を示します。精神疾患の多くはこれまでも免疫学的側面からの研究が行われてきていますが、産後うつに関しては大規模に解析を行った報告はほとんどありません。
東北大学大学院医学系研究科 兼 東北大学東北メディカル・メガバンク機構の富田博秋教授らのグループは、東北メディカル・メガバンク計画による三世代コホート調査(注1)に参加した妊産婦のうち、産後にうつ症状を呈する群と抑うつ症状を呈さない群において、妊産婦の妊娠中と産後の血漿中の代表的なサイトカイン(注2)のレベルを比較しました。
その結果、抗炎症性サイトカイン(IL-4,IL-10)(注3)レベルは、産後にうつ症状を示す妊婦で有意に低い事が明らかになりました。この結果は妊娠中に産生される抗炎症サイトカインが産後の心の健康状態と関連している可能性を示しています。
本成果は2023年6月15日に医学分野の専門誌Psychiatry and Clinical Neurosciencesに掲載されます。
Psychiatry and Clinical Neurosciences
【用語説明】
注1. 東北メディカル・メガバンク計画 三世代コホート調査:東日本大震災からの復興事業として平成24年度から始められ、被災地の健康復興と、個別化予防・医療の実現を目指している。東日本大震災被災地を中心とした合計15万人規模の地域住民コホート調査および妊婦とその胎児を中心とした三世代コホート調査を実施し、収集した試料・情報を整備している。東北メディカル・メガバンク計画は、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)と岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構を実施機関としています。
注2. サイトカイン:細胞間の情報伝達を担う主に免疫系細胞から分泌されるタンパク質で、その中でも、炎症性サイトカインは炎症を促進する働きを有する一方、抗炎症性サイトカインは条件によっては炎症を抑制するとされている。
注3. 抗炎症性サイトカイン(IL-4,IL-10):マクロファージと呼ばれる免疫細胞などから産生されるTNF-α,IL-1,IL-6,IL-8などのサイトカインは炎症を誘発することから炎症性サイトカインと呼ばれる。一方、2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)と呼ばれる免疫細胞から産生されるサイトカインであるIL-4やIL-10などはマクロファージにおける炎症性サイトカインの産生を抑制する作用を有するため抗炎症サイトカインと呼ばれる。ただし、IL-4などはアトピー・アレルギー性炎症の状態など状況によっては炎症促進に働くこともある。
【問い合わせ先】
(研究に関すること)
(報道に関すること)
東北大学東北メディカル・メガバンク機構
広報戦略室
長神 風二(ながみ ふうじ)