#29 今、私たちが備えるべきこと

2020.02.07
  • <右>高度救命救急センター センター長
    久志本 成樹
    ( くしもと しげき )
  • <左>総合地域医療教育支援部 部長
    石井 正
    ( いしい ただし )

災害医療から災害保健医療へ

最近の災害医療はどのように変化していますか。

久志本:東日本大震災までは災害医療というとほとんどが地震への対応でした。それが今は地震を視野に入れながらも、以外の自然災害や人為災害への対応も求められるようになってきています。

石井:特に今年は東京オリンピック・パラリンピックが開催されるため、世界各国から多数の観客が集まる場所で市民へのテロ攻撃や事故が発生した場合など、人為災害への対応が強化されているところです。

久志本:災害医療は、ニーズとリソースの不均衡な状態での急性期医療を指します。何らかの災害が起きて医療ニーズが急激に高まり、かつ医療を提供する側の対応能力も落ちている状態です。そのギャップを最小限にし、一人でも多くの人に適切な医療を提供することが災害医療の目的です。災害の種類が増えたことにより、医療者側が行うことの幅も広くなってきています。

石井:最近では、「災害医療」に「保健」の領域が追加され「災害保健医療」と呼ぶようになりました。これまでは災害発生直後にDMATが災害現場に駆けつけ、救出・救助された傷病者の治療を行うというような急性期の対応がメインでしたが、東日本大震災で避難が長期化するとともに、被害が広範囲にわたっていたこと、また津波による被災の特徴から、災害発生直後を中心とした活動では全体にケアが行き渡らないという経験をしました。それが転機となり、災害関連死を防ぐことも視野に入れ、数カ月から数年という単位での慢性期まで目を見張るようになってきたのです。

久志本:地震以外の自然災害、例えば台風のような風水害は、地震と違って予測できる災害です。発生した災害に対して医療を行うだけではなく、災害発生前から準備をして、いかにけがや病気を予防するかということも重要になりつつあります。

システムの中で活躍できる人材を

今、力を入れていることは何でしょうか。

石井:避難先というのは、自分の家ではありませんよね。そういった本来の生活ができない人たちがけがや病気をしないようにすることも災害保健医療の対象になります。特に避難所で長期にわたる生活を余儀なくされると、健康を損なうリスクも上がります。それに対応するため、現在、避難所の環境や医療ニーズを調査する避難所アセスメントシステムを開発しているところです。多数の避難所の環境や医療ニーズを一括して把握すれば、限られた資源を地域全体に効率的に分配していくことができます。昨年の台風19号で被災地となった宮城県丸森町でも活用されました。

久志本:マルチな対応が求められますので、何か一つに力を入れているというよりは、足りない部分を補うような取り組みをしています。身体的にダメージを受けた傷病者への対応が災害医療の考えだったものが、精神的なダメージも含めた医療ケアが必要になってきています。我々のような救急対応ができる医療者だけでなく、メンタルケアや栄養への配慮など、さまざまな職種の専門家が災害医療に関わり、システムとして対応する必要があります。そのシステムのなかで有機的に動くことができる人材育成は大学病院の責務と考えています。

石井:災害は基本的にテンポラリーなチームで対応することになります。私は今年度より、幅広い実績的なスキルを持つ人材を養成する「コンダクター型災害保健医療人材の養成プログラム(P6参照)」を開始しています。医師、看護師、薬剤師、行政の方などさまざまな職種の方が受講し大きな反響をいただいています。

久志本:訓練においても、CBRNE 災害(※)や原子力災害を想定した防災訓練を実施するようになりました。放射線などの知識も必要になります。専門知識をもち、かつ災害現場という本来の日常業務と違うところで医療を提供することにやりがいを感じて協調性をもって動ける人材を育てたいと考えています。

日常業務がある中で、平時から災害の準備をしておくモチベーションはどこにあるのでしょうか。

石井:東日本大震災当時、私は石巻にいましたが、真っ暗で静まり返った夜に5万人もの人が避難している。食べ物がないなかで助けを求めている人がいる。あの夜を繰り返してはいけないと思っています。それが、被災、亡くなった人たちに対する礼儀だと考えています。それがモチベーションになっていると感じています。

正しい情報入手で備えを

これからの災害に備えて、市民に伝えたいことはありますか。

石井:正しい情報を入手していただきたいです。自治体のホームページにさまざまなハザードマップが掲載されていますので、まずはそれらをご自身で調べてください。自分の住んでいる地域が、例えば津波がきたらどうなるのか、地震がきたらどうなるのか、どこに避難所があるのか。我々も、災害があればまずやるのは地図上での展開です。マジックで書いて対策を立てていきます。

久志本:人為災害に関しては、過度に甘く見てもいけないし、過度に恐れてもいけないので、やはりリスクを知っていただきたいですね。情報源は増えていますから、〝何かあったらなんとかしてもらおう〟ではなく、自分で備えておくことをお願いしたいと思います。

※CBRNE:C 【Chemical / 化学】、B【Biological / 生物】、R 【Radiological / 放射線】、N 【Nuclear / 核】、E 【E xplosive / 爆発】を原因とする災害
 

  • <右>高度救命救急センター センター長
    久志本 成樹 ( くしもと しげき )

    1959年生まれ、東京都出身。1985年大分医科大学医学部卒業。1985年日本医科大学救急医学教室入局、日本医科大学付属病院救命救急センター勤務。1987年順天堂大学浦安病院外科。1988年総合会津中央病院救命救急センター。1990年から1991年米国ミネソタ州メイヨークリニック留学後、日本医科大学救急医学教授などを経て、2010年11月より東北大学大学院医学系研究科救急医学分野教授、当院救急科科長、高度救命救急センターセンター長に就任。

  • <左>総合地域医療教育支援部 部長
    石井 正 ( いしい ただし )

    1963年生まれ。東京都出身。東北大学医学部卒業後、気仙沼市立病院研修医を経て、東北大学第二外科入局。2002年から石巻赤十字病院第一外科部長、2007年医療社会事業部長。2011年2月、宮城県から災害医療コーディネーターを委嘱された直後、東日本大震災が発生。石巻圏合同救護チームを指揮し、石巻の医療崩壊を救った。2012年10月、東北大学病院総合地域教育支援部
    教授に就任し地域医療体制の整備に携わる。

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