あらゆる垣根を越えて生まれるあたらしい大学病院

2015.05.15

2015年4月、八重樫伸生病院長が就任し、下瀬川徹前病院長からバトンが渡されました。
新旧病院長が、東北大学病院の今とこれからを語ります。

震災からの復興に全力を尽くした3年間

下瀬川 私が病院長に着任したのは、東日本大震災の翌年です。当時の里見病院長(現東北大学総長)から復興のバトンを引き継ぎ、建物や設備を復旧して、いかに早く良い状態で医療を提供できるかというのが当面の課題でした。目標を立てやすかったこともありますが、生理検査センターの整備、精神科病棟の移転など、おおむね達成できたと思っています。

八重樫 敷地内にも、いろいろな施設ができましたね。手術手技を習得する先端医療技術トレーニングセンターもその一つです。我々だけでなく、被災地を含めた地域の医療者も利用できて、東北全体の医療者のスキルアップにつながっています。念願だった研修医の宿泊施設「星陵レジデンス」の完成も、国立大学病院としては画期的なことでした。院内だけではなく被災地への支援にも東北大学の底力を感じました。現在も、大学の若手医師が交代で被災地に赴いています。大学病院が診療科の垣根を越えてひとつのことに取り組むのは、震災前にはとても想像できませんでしたが、いざとなると当たり前のように各診療科は連帯しましたね。

下瀬川 2012年の夏、宮城県の医療整備課にお願いして、被災地の医療施設をじっくり見てまわりました。現状を目の当たりにして、これは大変だと。すぐに石巻赤十字病院から石井正先生に来ていただいて地域支援の実務を担う部署をつくりました。今思えば少し強引でしたが、何とかしなければ破綻しかねない危機的状況でした。幸いだったのは、東北メディカル・メガバンク機構(※1)が立ち上がっていて、国からの大きな財政支援があったことです。早速、山本機構長に電話をして、助教のポストを活用して若い医師を循環させるという私のアイディアを伝えました。今の体制が電話一本で実現したんです。

八重樫 今年は南三陸町の公立志津川病院の再建や、石巻市立病院の新築移転などが予定されています。ハード面が整ってくると、復興も新しいフェーズに入ります。

下瀬川 恒久的な医療支援体制を考える時期です。診療科をさらに説得する必要も出てくるかもしれません。連携をさらに強めて、真の復興と言える新たなシステムを築いて欲しいと思います。

八重樫 今、病院はとても良い雰囲気です。震災という外圧に対して皆でなんとかしよう、ということで良い方向に向かったと思うのですが、ここからはちょうど転換期です。この明るい雰囲気のエネルギーがあちこちに発散してしまわないように、明確な方向性を出していく必要があると感じています。

下瀬川 病院の空気は、病院長や看護部長など執行部の人柄や考え方が反映されますからね。その点、八重樫先生には何も心配していないです。医師に限らず、多職種が自由にものを言えて、情報を共有できることが病院の基本です。それが医療事故や病院の中の問題を少なくする原動力にもなります。そういう雰囲気は、これからもぜひ続けてほしいと思います。

新しい医療創出の中枢を担う

八重樫 先端医療の開発は、大学病院の規模や先進性を示す要です。臨床研究推進センター(CRIETO)(※2)は、下瀬川先生の時代に基盤がつくられて、今ではスタッフが100名を超える規模にまで大きくなりました。

下瀬川 CRIETO は、これから新たな局面を迎えます。八重樫先生には、ぜひ実績を出して、国の様々な医療産業の開発を担える病院に発展させていただきたい。期待しています。

八重樫 全学的な組織としてメディカルサイエンス実用化推進委員会(※3)も下瀬川先生が立ち上げられました。専門分野を越えた連携の中で、医療現場である大学病院の役割がかなりはっきりと見えてきました。それを太く、広くすることが、これからの私の仕事だと思っています。

下瀬川 メディカルサイエンス実用化推進委員会は、16もの部局が横に連携しているわけですが、これは医学と工学の融合に伝統と実績を持つ東北大学だからできることで、他の国立大学にはありません。工学系、理学系の研究者にもサポートして頂いていますので、ぜひ大きく活動してください。

透明性を高め、地域社会からの信頼を

下瀬川 在任中を振り返って思い浮かぶことの一つに、広報室があります。震災があって、私は市民から理解を得ることの大切さを実感し、広報室を立ち上げました。大学病院には優れた技能と知識をもった専門家が集結していて、難しい病気を抱える患者さんのために必死になっています。しかし残念ながら、不信感をもたれてしまうことがあります。それではいけないと思い、我々の活動や思いを適切に発信する、そんな広報室を作ろうと思い立ったわけです。

八重樫 他の医療機関よりも敷居が高いというイメージがありますね。臨床研究を進めるにあたっても、閉鎖的でいては問題に繋がりかねません。

下瀬川 東北大学病院は「患者さんに優しい医療と先進医療との調和」をモットーとしています。この二つは相容れないようで、実は同じことです。先進医療を開発して、安全に患者さんに届ける、このミッションを実現するためには地域社会からの理解とサポートが欠かせません。透明性をもって情報を一般の方に積極的に伝えていくこと、そして一般の方からの要望も反映させていくことが大切です。

八重樫 市民の方々と交流できる場を今以上に増やしていきたいですね。職種、組織、地域、あらゆる垣根を越えてみんなが安心できる、あたらしい病院をつくっていきます。

※1 東北メディカル・メガバンク機構:2012年2月、東日本大震災からの復興事業の遂行のために東北大学に設立された組織。ゲノム情報を含む大規模な長期健康調査を県内で実施し、次世代型医療の構築を目指している。
※2 臨床研究推進センター:基礎研究から橋渡し研究、さらに臨床研究・治験への切れ目のない開発支援を行うために2012年に院内に設置された組織。医薬品や新たな診断法、医療機器の開発と実用化を目指す。
※3 メディカルサイエンス実用化推進委員会:超高齢社会など医療福祉に関する課題解決を目指し、学内の連携体制をさらに強化するために設置された組織。関連する16部局が緊密に連携し、東北大学のもつ豊富なシーズを効果的に活用し、実用化を目指す。
11月24〜30日は
医療安全推進週間
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