なぜ、今、かかりつけ医なの?

2017.08.10

地域ぐるみで治し、そして支える

かかりつけ医推進の背景を教えてください

藤森:よく知られているように日本は超高齢社会を迎え、高齢者の支援や治 療後のフォローなど、今後必要となる 医療の量や質が変化しています。それに伴うあらゆる課題を今の医療資源で解決していくために、国では今、地域における医療機能の分担を推進しています。私たちが生活する半径およそ 10 ㎞圏内にある病院が役割分担をして一人の患者さんを診る地域完結型の医療を行うという構想です。

八重樫:医療を地域全体のものとして 捉えるというのは新しい発想で、これまでは治療を受けた病院で回復するまで診てもらうという病院完結型の医療が、患者さんだけでなく、私たち医療従 事者の感覚としても主流でした。地域 で完結させるということは、それぞれの病院が自分の得意分野に専念し、不得意な部分は他の病院にお願いするという病院同士の連携が重要になってきます。

藤森:地域全体が一つの病院という医療システムの中で、患者さんが自宅近くにかかりつけ医を持つことは、色々な面でメリットがあります。例えば複数の疾患を持つ方は、それらを全てまとめて把握してもらうことができますし、何かあれば専門の病院につないでもらうことができます。そういった安心につながる連携体制を構築することがかかりつけ医推進の大きな目的です。

八重樫:地域完結型が機能するためには、患者さんにはかかりつけ医を持っ ていただくこと、病院側は、それぞれの存在理由を明確に示していくことが不可欠です。私たちの場合は、大学病院でなければできない医療を効率よく提供していくためにはどうしたらいいのか、というところを考えていかなければなりません。

真の連携を推進するために

どのような課題がありますか?

藤森:大学病院ならではの医療といえ ば高度医療が挙げられますが、これには人手もお金もかかります。経営的な 視点からは一般的な医療の方が良いわ けです。ただ、どこの病院でもできる 医療を大学病院が行うのでは意味がありません。

八重樫:大学病院というのは、設備も マンパワーも投入できる病院ですから、 当然、難しい治療、人出が必要な医療に 特化していきます。今の低侵襲の手術 機器等を備えた新しい診療棟を建設中 ですが、こういった最新の医療は、開発 していく人、資金、設備などが必要です。 例えば東北大学病院は日本で初めて体 外受精に成功していますが、その技術 一つをとっても、当時は卵子1つを採 るために全身麻酔で1週間も入院して いました。ところが今では開業医の先 生が外来で行うことができるほど低侵 襲になっています。医療とはそういうもので、今普及している医療技術は誰 かが何かを突破してきた成果で、それにはとてつもない大きなパワーが必要 です。大学病院は常にその先頭を走る 存在であるべきだと思っています。

藤森:そのためにも、ピンポイントで 最も高度な医療を提供する病院としてスリム化していくことが必要ですね。 超急性期の医療、専門的な医療という役割を担い、治療後には、紹介元の病 院に患者さんをお戻しする、そしてきちんとフォローしてもらうという連携 が理想です。

八重樫:今年4月に入退院センターを 開設し、看護師やソーシャルワーカーを中心としたベテランのスタッフが入 院前から退院を見据えた支援を始めていますが、治療内容や症状、家族構成や 住環境など、患者さんを中心とした非 常に細やかな支援が必要なことを実感 しています。また疾患によっても、連 携先や内容が大きく異なりますね。

藤森:例えば「がん」がその典型で、 開業医の先生の所にはCT が無いというような設備の問題もあります。そうすると、診断から治療、回復期のフォ ローまで大学病院で行い、開業医の先 生は投薬だけになってしまう。それでは真の連携とはいえないかもしれませ ん。大学病院と診療所の間に、十分な 設備やマンパワーを持つ中規模の病院 に入っていただく必要があります。

八重樫:大学病院での治療の後に回復期を安心して過ごせる場所をきちんと用意する、そういう絵柄ができれば、皆がハ ッピーな地域完結型医療になりますね。

なにかあったら大学病院という存在感

地域の中で大学病院が担う役割とは?

八重樫:今後、院内では職員の意識改革、院外では、地域の中の病院長との話し合いを進めていかなければなりません。

藤森:地域全体の医療システムを作 る、その中心になるのは、やはり大学 病院です。

八重樫:まずは私たち自身が役割を明確に示していくこと、そして地域全体をまとめ上げる旗ふり役を担うこと、これが地域完結型の医療における大学病院の役割でしょうか。

藤森:医療とは我々大学病院が提供し ているような高度で専門的なものだ けではなく、健康づくりや予防、日々 の健康管理も含まれます。健康な生 活を送る中で、いざというときには東 北大学病院が診てくれるから大丈夫、という安心を与えられる存在であることが私たちのあるべき姿で、それを実現することにより、地域はもとより 東北地方の基幹病院として、日本の医 療に大きく貢献できるのではないで しょうか。

八重樫:人材育成、新しい医療の開発、さらには東北地方の医療を守るという本来のミッションを果たすために も、私たちの取り組みを地域の皆さんと共有し、そして理解を得られるような信頼関係を築いていきたいと考えています。

11月24〜30日は
医療安全推進週間
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