#31 「あたりまえ」を子育てのよりどころに

2020.11.13
  • 小児科 科長/教授
    呉 繁夫
    ( くれ しげお )
  • 小児科 神経グループ/助教
    植松 有里佳
    ( うえまつ ゆりか )

診察で培ったノウハウを より多くの親子に届けるために

おきぐすり」が生まれた背景を 教えてください。

植松:本来はそうではないのに、自閉症やADHD(注意欠如・多動症)のように見えてしまうお子さんを外来で診る機会がすごく増えました。そういった「発達障害疑い」でかかりつけ医などから当院小児科にご紹介いただくお子さんたちのうち、半数以上は発達障害ではなく、家庭での生活や子どもとの関わり方を変えることで症状が改善するお子さんたちです。

私はもともと発達障害が専門ではなかったのですが、数年前から発達障害の外来を担当するようになって、これまで専門の先生方が培ってきたノウハウ、例えば、親御さんに対する生活のアドバイスをその通りに子育てに取り入れたご家庭では、お子さんや親御さんの笑顔が増え、状況が改善していくのを目の当たりにしました。子どもの成長は早く、一年一年が本当に貴重です。あと一年早くこのことを伝えてあげられていたら、きっとこの子はもっと発達が伸びたんじゃないかな、と感じることもあります。私たち医療にたどり着く前の多くのお子さんたちにこのノウハウを早く届けられないか、特にかかりつけの小児科医のような、お子さんともっと近い関係の多くの方が使いやすく、負担なく取り入れていただけるようにと考えて作ったのが「おきぐすり」です。

呉:広く伝えなければいけない背景には、発達障害という病気の特殊性があります。発達障害は、病気か病気でないかの区別が極めて難しい。病気のお子さんを治療するのは医療の領域ですが、それに対して、病気ではないお子さんを扱うのが保健という領域です。保健は医療に入る前のクッションとして、多くは自治体が担っています。生活に支障はないけれど他の子と比べると気になるな、という時の相談先は仙台市であれば発達相談支援センターです。相談件数は年々増加していて、仙台市の場合、10人に一人が利用しています。

「おきぐすり」は、医療ではなく保健の領域で、昔はこの役目をおじいちゃんやおばあちゃんが担っていたのではないかと思うんです。お兄ちゃんお姉ちゃんや、親戚が周りにたくさんいるという昔の大家族ですね。今はこのクッションがない。

植松:近所のおばさんや親戚からのおせっかいが通用しない時代ですし、他のお子さんと比べてどうなのかな、と見る機会も減っています。今の社会は、子どもとの関わり方の大部分を親御さんに任されているんです。

もうひとつの側面として、電子メディアがあります。人と関わる時間より電子メディアと関わる時間がこれほど長いのは、ひと昔前にはあり得なかったことです。人対人のコミュニケーションをとる経験が減ってしまったことが、相談が増えている背景にあると考えています。
ですので、このおきぐすりは、発達障害と診断されたお子さんだけに向けたものではありません。つまずいているお子さんや、その前の段階のお子さん、どんなお子さんにも使っていただける内容です。

目指すのは社会での自立。大人になった姿を想像して

どのような特徴がありますか?

植松:見やすさ、分かりやすさが一番ですが、それに加えてお母さんたちが孤立しないように工夫しました。最近のお母さんたちは子育ての苦労のはけ口を失っていて、「綺麗ごとを言われたって」と受け入れられない方もいます。例えば、「どんな場面でもスマホはダメ」ではなく、スマホの代わりになる遊び方を具体的に紹介するようにしています。実際は当たり前のことばかりで、作る意味はあるのだろうか、という迷いもありましたが、同時に、当たり前が難しい社会になってきていることも実感しています。

呉:まさにその当たり前をやって欲しいですね。当たり前とは、したほうがいいこと、してはいけないことを人々が薄々感じながら経験として蓄積してきたものなんですよね。「おきぐすり」を読んで、当たり前が素晴らしいことなんだと再認識していただければと思います。当たり前は子育ての長い歴史の中で残ってきた精鋭部隊なんですよ。

植松:「おきぐすり」は、かかりつけ医の診察室や家庭に常備して使っていただきたいと思い、富山の置き薬をイメージして名付けました。

呉:子育てのやり方に医学的な根拠を示すことは難しい。私たち小児科医の経験からお子さんにとって良いと信じています。ぜひ子育てのよりどころにして、安心して取り入れていただきたいと思います。

植松:「おきぐすり」でも困りごとが解決しないという場合には、遠慮せずにかかりつけ医に相談していただきたいと思います。
私たちが目指しているのは、お子さんが社会で自立することです。小児科医も親もどうしても子どものときだけを見てしまうものですが、これを積み重ねて大人になるんだ、自立して社会で生活のできる大人に育てるんだ、と赤ちゃんを見ながら大人を想像する姿勢が大切だと思っています。

  • 小児科 科長/教授
    呉 繁夫 ( くれ しげお )

    1956年生まれ、新潟県出身。1988年東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。同小児病学分野准教授を経て、2011年教授に就任。2012年から2014年まで東北大学病院副病院長。2014年より東北メディカル・メガバンク機構副機構長を兼任。

  • 小児科 神経グループ/助教
    植松 有里佳 ( うえまつ ゆりか )

    1980年生まれ、東京都出身。2013年東北大学大学院医学部医学系研究科修了。石巻赤十字病院、仙台赤十字病院、宮城県立こども病院、国立精神・神経医療研究センター神経研究所流動研究員を経て2015年より東北大学病院小児科。2020年より現職。

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