#26 危険のシグナルはありふれた症状の中に

2019.05.16
  • 呼吸器内科科長
    一ノ瀬 正和
    ( いちのせ まさかず )

一過性のものではないせきとたんは異常のサイン

早期に病院を受診し、初期に発見と治療ができれば、病気は大ごとになる前に改善できます。しかし実際は、ぜんそくにしろ慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺がんにしろ、病気がかなり進行してしまってから来院される方が非常に多いのです。なぜなのかその理由を考えてみると、その初期的症状であるせきやたんがごくありふれたものだから、ではないでしょうか。つまり、軽いせきが長く続いたり息苦しさを感じているのに、皆さん「このぐらいなら大丈夫」と甘く考えて見過ごしてしまっているのです。
せきやたんは、気管支の炎症のサインであるとともに気道の粘膜への刺激に対して備わった防御機構です。私たちが吸いこむ空気の中に含まれているホコリや異物を体の外に放出するために、たんでくるんでせきで吐き出すわけです。つまり、健康であれば、せきやたんが出ることも、息苦しく感じることもないようにできています。加齢が原因でそうなるということもありません。もちろん、むせたり誤って食物が気管に入れば反射的にせきをするのは正常な反応ですし、風邪をひいて数日間せきが出るのも炎症と治癒過程であり異常とは言えません。けれども、せきが1カ月も続くとか毎朝たんが出るのは何らかの異常が起きているからだと考えるべきです。

その先に潜む呼吸器疾患の可能性

実際、せきやたんを初期症状とする呼吸器疾患はさまざまあります。感染症やがん、生活習慣によるものやアレルギーなど多岐にわたるのが呼吸器疾患の特徴です。例えば一つ目は気管支ぜんそく。子どもから老人まで広くかかる病気で、推定患者数は人口の10%近くにもなると言われます。二つ目はCOPD。50歳以上の喫煙者に多く、タバコの煙で肺胞が壊れたり気管支が狭くなります。三つ目は非結核性抗酸菌症。弱い菌が気管支に住みついてくすぶり型の気管支炎や肺炎を起こします。四つ目は肺がん。五つ目は過敏性肺炎。カビや鳥の排泄物を吸引することによるアレルギー性の肺炎です。六つ目は間質性肺炎。酸素を取り入れる肺の壁に起こる炎症です。
せきやたんはこれらを含めさまざまな病気の入り口となっている可能性があるので注意しなければなりません。

非可逆的な段階にまで進行してしまうその前に

こうした呼吸器疾患はいずれも、軽いせきが出るくらいの症状のうちに治療や対策がとれれば、改善の余地がかなりあります。しかし、放っておいたり我慢したりしているうちに静かにゆっくりと進行し、症状がひどくなって顕在化したときには取り返しのつかない状況になっているのです。気管支ぜんそくであれば「ゼーゼー、ヒューヒュー」という喘鳴(ぜんめい)が出るくらいになると改善が難しくなりますし、COPDは平らなところを歩くだけで息苦しい段階にまでくると、薬で症状を緩和することはできても改善の度合いは小さくなります。非結核性抗酸菌症が進めば入院しなければならず生活の質が落ちますし、過敏性肺炎や間質性肺炎が進行すれば肺が線維化してしまいます。肺は酸素を取り入れるスポンジのフィルターみたいなものですが、一度線維化するとまるで軽石のようになってしまい、もう二度と元に戻すことはできません。

早めに病院で呼吸機能検査を

ですから、軽い症状のようであっても、せきやたんが長く続くような場合、あるいはだんだんとひどくなる場合、さらには周期的に繰り返し起こるような場合には、お近くの医療機関を受診するようにしましょう。その診断に納得がいかないときには別の病院に行くのも良いでしょう。病気の入口でこそセカンドオピニオンは大切です。そしてぜひ呼吸機能検査を受けることをお勧めします。スパイロメーターという器具をフッと吹くだけで、気管支が狭いかとか肺が膨らみづらいかとか病気の可能性がわかります。小学校で肺活量検査をやった人も多いでしょうが、大人になってからも一度検査を受けておくと良いでしょう。
人は1日に何万回も呼吸し、そのたびに体内に酸素を取り込みます。そのフィルターの役目を担っている肺は、大切に守らなければなりません。軽い症状だと甘く見ずに、くれぐれもご注意いただきたいと思います。

  • 呼吸器内科科長
    一ノ瀬 正和 ( いちのせ まさかず )
    1954年生まれ。福島県出身。
    1980年東北大学医学部卒業後、英国立心肺研究所胸部内科留学、東北大学医学系研究科助教を経て、2003年に和歌山県立医科大学医学部内科第三講座教授、2012年に東北大学大学院医学系研究科呼吸器内科学教授、当院呼吸器内科科長に就任。