【寄稿7】東日本大震災から10年、今、私たちが考えていること

2021.03.05

メディカルITセンター 部長
中山 雅晴

東日本大震災による津波で、沿岸にある多くの医療機関が壊滅的被害を受け、紙カルテ、電子カルテを問わず診療情報が失われました。診療情報を参照できなくなると患者さんが服用している薬も簡単には処方できなくなりますし、検査結果の確認も不可能になります。国も震災を機にガイドラインを出し、診療情報の遠隔地バックアップを推奨するようになりました。その後多くの地域でシステムが構築され、単純なバックアップ、もしくは通常時にも診療情報の共有することができる地域連携システムとして機能しているものなどが作られました。宮城県は後者で、延べ1500万人分、総データ6億件を蓄積しているMiyagi Medical and Welfare Network(MMWIN)があります。現在このネットワークは、コロナ禍において遠隔モニタリングや訪問診療などにも用いられています。加えて、スマートフォンなどの個人端末から自分の診療データを確認することができるサービスも開始されました。これはPersonal Health Record(PHR:個人情報記録)と呼ばれ、血圧や脈拍、体重といった日常記録と診療データとを組み合わせることができるので、患者さん本人のみならず医療者側にとっても大きなメリットがあります。

「必要こそが発明の母であり、困難こそが偉大な成果を生むための、真の学校である(サミュエルスマイルズ)」という言葉があります。震災を機に新しいプロジェクトが生まれたように、今の困難も必ず次の技術革新や明るい未来へつながると信じます。

MMWINでは、同意をいただいた患者さんの採血検査結果や画像データなどが閲覧可能。

震災後に構築されたMMWINのPHRの画面。スマートフォンからも確認可能。

中山 雅晴(なかやま まさはる)
1968年埼玉県出身。2000年東北大学大学院内科学系専攻循環器病態学分野卒業(医学博士取得)。2004年米国ベス・イスラエル・ディーコヌスメディカルセンター ポスドクを経て、東北大学病院循環器内科医員。2006年メディカルITセンター助教、2016年東北大学大学院医学系研究科医学情報学分野教授、2016年より現職。
11月24〜30日は
医療安全推進週間
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