【特別寄稿】東日本大震災から10年、今、私たちが考えていること

2021.02.12

独立行政法人 日本学術振興会 理事長
里見進

 

早いもので今年の3月で東日本大震災から10年が経過する。改めてお亡くなりになった皆様へお悔やみを申し上げるとともに、被災地の一日も早い復興を祈念いたします。

震災当時私は東北大学病院の病院長だった。大学病院は震災直後から、トリアージ体制の整備など院内の体制を整えるとともに、震災で多くの損害を被りながらも懸命に医療を支えている沿岸部の病院への医療スタッフの派遣、またそれらの病院からの患者の受け入れ、大小多くの避難所の医療体制の整備などを行うことで、医療の最後の砦として役割を果たすことができた。ただ、これらのことがうまくいったのは事前の防災訓練等が功を奏したこともあるが、大半のことはたまたま病棟が新築で制震構造になっていたなど、幸運によるところが多かったと思う。従って、今後のことを考えると、たまたまの幸運に頼ることなくきちんとした体制を整備する必要がある。その意味では、震災の翌年から、災害時に中心となって活動できる人材の養成や、より大きな災害を想定した広域での訓練、食糧や医薬品の備蓄、災害時通信手段の整備などを、大学病院が中心になって徐々に整備してきたと聞き、適切な対応であると心強く感じている。必ず起こるとされている次の宮城沖地震に備えて、大学病院がさらに災害に強い組織になること期待している。

現在は東京に住んでいるので被災地の現状に疎くなっている。たまに流れてくるニュースなどを拝見すると復興はまだ道半ばといえる。震災直後に大学は災害復興新生研究機構を立ち上げその下に、災害科学国際研究所や東北メディカル・メガバンク機構などを設置した。また同時に農学研究科の新築移転、国際集積エレクトロニクス研究開発センター(CIES)や先進医療棟、東北放射光施設などの整備を行った。今後はこれらのインフラを有効に使い、東北・日本の復興の先導役を担ってほしい。

震災直後より連日朝と夕方に災害対策会議を開催。各所より寄せられる津波による被害状況のほか、
受診者数や救急車の搬入数など最新情報を共有し、体制を構築した。

里見 進(さとみ すすむ)
1948年沖縄県出身。1974年東北大学医学部卒業。東北大学附属病院第二外科助手、ハーバード大学研究員、東北大学医学部第二外科講師を経て1995年同大医学部教授。2004年東北大学病院長(2005年より東北大学副学長を兼務)、2012年〜2018年東北大学総長に就任。2018年より現職。
11月24〜30日は
医療安全推進週間
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