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「導入後の管理は私が」COVID-19患者のECMO管理に名乗りを上げた麻酔科医-志賀卓弥・東北大学病院麻酔科講師に聞く◆Vol.1
「導入後の管理は私が」COVID-19患者のECMO管理に名乗りを上げた麻酔科医-志賀卓弥・東北大学病院麻酔科講師に聞く◆Vol.1
TUHレポート 2022.04.28

「導入後の管理は私が」COVID-19患者のECMO管理に名乗りを上げた麻酔科医-志賀卓弥・東北大学病院麻酔科講師に聞く◆Vol.1

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※m3.com地域版『東北大学病院/医学部の現在』(2022年4月8日(金)配信)より転載

 東北大学病院は、宮城県内における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染制御に多角的な活躍をみせる一方で、第一種感染症指定医療機関として重症患者を受け入れつつ、移植手術をはじめとした高度医療を維持継続してきた。宮城県新型コロナウイルス感染症医療調整本部の一員として県内の重症病床調整を担いながら重症者の治療にあたってきた同院麻酔科で集中治療室副部長の志賀卓弥講師に聞いた。(2021年12月25日インタビュー、計2回連載の1回目)

――COVID-19発生当初のICUの様子を教えてください。

 ダイヤモンドプリンセス号の報道には注目していましたが、2020年の2月に宮城県で最初の感染者が確認された時も、危機感はまだあまりなかったと思います。3月末に大学で初めて陽性者を受け入れたときも、ICUではなく第一種感染症病床での受け入れだったこともあり、院内にCOVID-19の患者さんが入り始めたな、というような感覚だけで、パンデミックが始まった、という認識はまだ持っていませんでした。ICUのスタッフとの間で、受け入れた場合を想定して、挿管時に必要な防護具や、対応するスタッフの体制をどうするか、などを議論していた程度です。

ICUで入院患者の治療にあたる志賀卓弥医師

――実際にICUで治療を始めたのはいつからですか。

 1例目は、2020年4月15日、他の協力病院から当院に転院してきた患者さんです。集中管理が必要な患者さんを大学で初めて受け入れるにあたり、院内のどこに入院させるのが適切かを感染管理室と事前に議論しました。高度救命救急センター、ICU、感染症科の病床の3カ所が候補にあがりました。

 私たちとしては、ICUであればこれまでも感染力が強いインフルエンザを診ていた経験があること、陰圧環境や個室といった必要な設備も人的リソースも確保できることから、ICUで受け入れる考えでした。第一種感染症病床と高度救命救急センターは同じフロアにあるものの離れているため、スタッフの体制も含めて対応が難しいという理由で、最終的にICUで受け入れることになりました。ただ、その頃はここまで感染患者数が増えると誰も思っていなかったので、患者一人をどこで診るのか、というレベルの議論だったと思います。

――ICUで受け入れが決まってどのような対応をしましたか。

 気管挿管のプロトコルを作ったところで、初めての患者を受け入れました。当時はまだ十分な資材があり、患者数も多くはなかったので、ハード面での問題や心配はありませんでしたが、感染力が強いことは分かっていながら得体が知れないという不安がありました。重症化するかどうかすら分からず、フルカバータイプのPPEであるタイベックスーツが必要ではないか、と言われていたほどです。空気感染はしないことはわかっていたので、感染管理室と協議の上、ガウンタイプのPPEで十分であろうというスタンスで対応しました。そのあたりは、今とほとんど変わりがありません。苦労したといえば、その頃は他の多くの医療従事者もやっていたことですが、万が一にでも家族に感染させたくなくて、家に帰らずにホテルに泊まっていたことでしょうか。

経過表と患者モニタで状態を確認するICU多職種スタッフ

――状況はどのように変化しましたか。

 1例目の受け入れからしばらく間があき、2020年9月28日に次の患者さんが入ってきました。第2波です。その頃には少しずつ、重症化率、感染経路、感染後の経過の情報が入り始めていました。治療薬も、ステロイド、レムデジビルが使えるようになっていました。3人目の方は10月27日、第3波が立ち上がり始めた頃です。この間、対応方法は大きくは変わっていません。変わったのは、やっと私が家に帰るようになったことです。

 ただし、第3波では医療材料の不足に直面しました。N95マスクの世界的な不足で在庫補充の見通しが立たなくなったことから、院内で使用制限がかけられました。フェイスシールドは、東北大学未来型医療創造卓越大学院プログラムの学生と教員が、「コロナ禍で、医療現場に真に役立つフェイスガードを届けよう!:PROTECT」というプロジェクトを立ち上げ、現場のニーズを反映して繰り返し使えるフェイスシールドを3Dプリンターで作成して、提供してくださいました。サージカルマスクは3日で1枚という厳しい使用制限で、N95マスクは、海外の動画を参考に、マスク部分に手を触れずに長期間使用する方法を試してみたり、試行錯誤で対応していました。

何度も再利用するためにタッパーを活用して外側に手を触れずにマスクを装脱着

――その後、重症病床を拡大していきました。

 もともとはICUの一角の2床をコロナ専用に確保していましたが、10月27日の次の患者さんが入ってきた11月3日に2床が埋まり、その次の方は11月17日と、コンスタントに患者がいる状態が続きました。ECMO管理が必要な患者さんが出始めたのもこの頃です。

――最後の砦としてECMOが注目を集めました。

 まさかECMOがここまで話題になるとは思っていませんでした。2009年の新型インフルエンザA(H1N1)のパンデミックで日本のECMOの成績が他の国と比較して振るわなかったことから、2012年から日本呼吸療法医学会、日本救急医学会、日本集中治療医学会などが主体となり医療レベルを上げる取り組みが行われてきました。その成果として、COVID-19では早い段階から稼働することができ、国全体で7割弱、当院では8割の成績を残しています(2022年3月14日現在)。

 麻酔科医は普段、ECMOのような侵襲的治療を行う機会は多くないですし、看護師配置も通常のICUでは2対1ですが、COVID-19重症例でECMO1台を回す場合、1対1程度必要となり、かつCOVID-19専属となるため人的リソースの多い大学のICUであってもECMOを回すのは簡単なことではありません。救急でもECMOを取り扱えますが、他の病院では救急の先生方がCOVID-19を診ているところが多かったこともあり、仙台市内の救急医療の維持のためにも当院では私たち麻酔科の集中治療医で診ることにしました。私が体外循環専門でこれまでに経験もあったので「導入後の管理は私がやりますから」と言って、心臓血管外科のサポートを得ながら、麻酔科医を中心にECMOを導入しました。

 V-V ECMOは、当院の呼吸器外科と心臓血管外科で、年に数回使用する程度でした。当然、スタッフも慣れているとは言えず、まずマニュアルを作ることから始めました。厚生労働省ECMOチーム等養成研修事業で、仙台で研修が実施されたため、私たちも、医師、看護師、臨床工学技士のチームで参加しました。この研修で日本各地のECMO診療で活躍されている先生方からアドバイスをいただき、マニュアルを作成していきました。麻酔科、救急科、心臓血管外科、看護師、放射線部、臨床工学技士らから、協力を快諾いただき、それぞれの立場からマニュアルのフィードバックをいただき、修正しながら重症COVID-19に対するV-V ECMO診療体制を整えました。

【取材・文・撮影=東北大学病院 溝部鈴】

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志賀 卓弥(しが たくや)

2005年北里大学医学部卒業。3次救急病院にて外科初期研修を修了、麻酔、救急、集中治療に従事し、ECMOなど体外循環を経験。東北大学大学院医学系研究科博士課程へ進学し、2015年人工心臓の研究で医学博士を修了。医療機器開発の産学連携に接し、社会実装の必要性を感じ、慶應義塾大学大学院経営管理研究科で2017年経営学修士を修了。2017年4月より東北大学病院集中治療部、2020年7月より同部副部長。

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