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「腹の内を知る医師ばかり」宮城県COVID-19入院調整がうまくいったワケ-志賀卓弥・東北大学病院麻酔科講師に聞く◆Vol.2
「腹の内を知る医師ばかり」宮城県COVID-19入院調整がうまくいったワケ-志賀卓弥・東北大学病院麻酔科講師に聞く◆Vol.2
TUHレポート 2022.05.06

「腹の内を知る医師ばかり」宮城県COVID-19入院調整がうまくいったワケ-志賀卓弥・東北大学病院麻酔科講師に聞く◆Vol.2

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※m3.com地域版『東北大学病院/医学部の現在』(2022年4月15日(金)配信)より転載

 東北大学病院は、宮城県内における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染制御に多角的な活躍をみせる一方で、第一種感染症指定医療機関として重症患者を受け入れつつ、移植手術をはじめとした高度医療の維持継続に尽力してきた。宮城県新型コロナウイルス感染症医療調整本部員として県内の重症病床の調整を担いながら重症者の治療にあたってきた同院麻酔科で集中治療室副部長の志賀卓弥講師に聞いた。(2022年3月13日インタビュー、計2回連載の2回目)

――2021年8月前後のCOVID-19第5波で宮城県の重症者数がピークとなり、ベッドを拡大しました。

 第5波では、8月にICUのCOVID-19専用病床を最大18床まで広げました。そのうち4床で並列にECMOが動いている、10人近くが人工呼吸器管理、しかも全員がCOVID-19感染者、という状況を想像すれば大変さがお分かりいただけるかと思います。宮城県内では他の協力病院でもECMOを回していましたが、ECMOを1台回すと医療リソースがかなり割かれ、他のCOVID-19患者の受け入れが難しくなります。地域の中で一番リソースが豊富なのは大学ですから、大学内で業務をシフトすることで対応するのがリーズナブルなのは明らかです。さらに大学では、COVID-19の重症の定義である5L酸素投与で酸素飽和度が93%以下よりもさらに重症な、挿管やECMOが必要な症例を集中して受け入れていました。

 ここまで一度にECMOを稼働させるためには、医療スタッフのトレーニングと人の確保が必要です。半年程度でここまで準備できた病院はECMOに特化した施設を除けば全国的にもなかったのではないかと思います。

ECMO回路内の血栓をチェックする志賀卓弥医師

――他の医療への影響はなかったのでしょうか。

 第5波のピークでは、宮城県内で受け入れ可能な重症病床はほぼ満床となり、重症例があと10人増えれば通常医療に大きな影響が出ていたかもしれないというギリギリの局面はありましたが、ちょうどピークアウトしたこと、また宿泊療養と入院病床の医療調整がうまく機能していたことで、一般診療に大きな影響を与えることなく乗り切ることができました。実際、第5波の最中にも脳死移植を受けた患者さんをICUで収容しました。この時期はCOVID-19以外に2台のECMOが装着されており、ICU全体で6台のECMOが稼働していました。

 2020年2月からは私も宮城県新型コロナウイルス感染症医療調整本部の本部員となり、宮城県内の重症例をほぼ把握し、各病院の状況を加味しながら入院調整を行いました。本部長が冨永悌二病院長、副本部長が石井正先生、他の本部員には東日本大震災を経験した先生方が中心となり、パンデミックを災害と捉えてそれに準じた調整をしていましたので、必要になればベッドを空けてくれると信頼して対応できたことは大きかったです。

――入院調整において、他病院との連携はいかがでしたか。

 大学の他の先生方も異口同音におっしゃっていますが、宮城県では、他の病院といっても顔を知っている身内のような先生方がほとんどです。普段からコミュニケーションを取っていますし、現場の行き来もしているので、重症患者が発生して受け入れ先をどうするとなっても、他の協力病院の病床がどのくらい空いているか、入院している患者さんがどの程度重症かなど、大体、わかるんですよね。腹のうちを知っている人たちだったので、調整はそれほど苦労しませんでした。協力病院全体のリソースとして、ベッドがあれば使うしかないですから。EMIS(広域災害・救急医療情報システム)も早い段階から活用し、地域全体として病床管理がうまくいっていたと思います。他の地域のような空床の問題はそれほどありませんでした。

――大学が中心となった入院調整の一方で、地域の医師に対して集中治療の教育活動も行っていました。

 東北大学には、東日本大震災を機に設立した地域開放型の医療研修施設「東北大学クリニカル・スキルスラボ」があります。これまで12万人以上の医療従事者に教育を行い、被災地をはじめとする地域全体の医療の質の向上に取り組んでいます。この施設は、ECMOの取り扱いについて他施設に対する研修を行っている東北唯一の施設です。厚生労働省ECMOチーム等養成研修事業のECMOシミュレーションの一部は、ここで東北医科薬科大学の遠藤智之先生が開発した内容が盛り込まれています。

 集中治療専門医は全国でも2124人しかいません(2021年10月現在)。そのうちECMOを取り扱えるのは200人ほどです。しかも人口が多い都市圏に集中しているため、東北6県では10人程度かと思います。対象となる患者さんも年間数件なので、CPAのようにシミュレーション教育を継続的に行う必要があると考え、私も厚生労働省ECMOチーム等養成研修事業のインストラクターとなりお手伝いしました。

ECMOのデモンストレーション

――第6波はピークアウトの兆しが見えてきたところですが、変異株による第7波がまもなく到来するとも言われています。今後についてどうお考えですか。

 第7波は来るものと思っています。また重症化率が増えるかもしれませんし、今後の変異株の出現には注目していく必要があります。次の変異株がどのような性状になるのかは誰にもわかりませんが、少しずつ病原性が低下してくるとすれば、ICU運用を通常診療に戻していく必要があります。

 今回のパンデミックを教訓に、ICUのあり方は、かなり注目されました。今後医療政策として、効率一辺倒ではなく、有事の際の患者収容などのゆとりをどこまで考えるのか、総医療費とのバランスをどう取るのか、など議論されていくのではないかと思います。私たちは、COVID-19患者に対応しつつ、当院の使命として、高度医療の提供と、地域医療へ貢献するため、スムーズに患者を収容できるよう、運営していきたいと考えています。

【取材・文・撮影=東北大学病院 溝部鈴】

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志賀 卓弥(しが たくや)

2005年北里大学医学部卒業。3次救急病院にて外科初期研修を修了、麻酔、救急、集中治療に従事し、ECMOなど体外循環を経験。東北大学大学院医学系研究科博士課程へ進学し、2015年人工心臓の研究で医学博士を修了。医療機器開発の産学連携に接し、社会実装の必要性を感じ、慶應義塾大学大学院経営管理研究科で2017年経営学修士を修了。2017年4月より東北大学病院集中治療部、2020年7月より同部副部長。

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