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未来の医療のための病棟「先端治療ユニット」開設
未来の医療のための病棟「先端治療ユニット」開設
TUHレポート 2024.04.17

未来の医療のための病棟「先端治療ユニット」開設

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従来の治療法では十分な効果が見込めない患者にとって、新たな薬剤・医療機器は希望の光となり得ます。しかし、薬事承認を目指す治験では、高度な安全性や正確なデータ収集など、さまざまな厳しい規制が求められます。そこで東北大学病院は、2023年9月、「先端治療ユニット」を開設し、より安全かつ円滑に難易度の高い先端治療や治験を実施する体制を整備しました。先端治療ユニットは、専門的な知識・経験を備えたスタッフで構成され、東北地方で初の試みとなる治験専用病床を含む26床の先端的な治療を提供するための専用病棟です。初代ユニット長には、東北大学病院副病院長として医療安全を担っている香取幸夫教授が就任。日本の医療技術の向上と、当院の理念である「患者さんにやさしい医療と先進医療との両立」の実現を目指します。

——先端治療ユニット開設に至った背景と、組織体制について教えてください。

 東北大学病院は2015年に、質の高い臨床試験を推進する中心的役割を担う医療法上の臨床研究中核病院に承認され、革新的な治療法の開発をはじめとした臨床研究を幅広く行ってきました。しかし、これまでは、各診療科が各々の病棟で他の入院患者の診療を行いながら治験に取り組まなければならないという課題がありました。治験は、患者の病状管理や検査データの取り扱いなどにおいて非常に厳格な安全性と正確性が求められます。急患などで患者やスタッフの出入りが激しい一般病棟ではなく、治験に集中できる専門の病棟を設けるのが望ましい、それが今回、先端治療ユニットを開設した主眼です。
 先端治療ユニットは3つの運用チームで構成されています。抗がん剤治療を中心に高度な安全性の担保が必要とされる化学療法チーム(代表:腫瘍内科副科長の高橋雅信准教授)、治験全体を管理・調整する治験運用チーム(代表:血液内科科長の福原規子特命教授)、静かな環境下での診療が求められる睡眠検査チーム(代表:耳鼻咽喉・頭頸部外科の安達美佳病院講師)の3チームです。また、先端治療ユニットは新型コロナウイルス感染症患者専用の病棟を機能転換したものであり、新薬の副作用など不測の事態にも迅速に対応できる優秀な看護師がそろっています。各科の医師や看護師、治験専門のスタッフなどで構成する先端治療ユニットは、非常に効率的かつレベルの高い医療資源が確保できています。

——先端医療ユニットの設置によって、どのようなメリットがあると考えられますか。

 まず、治験の進行管理を担う臨床研究コーディネーター(CRC)の活動範囲が1カ所に集約されたことです。これにより、さらに治験の効率性と安全性が向上し、各診療科との連携もとりやすくなります。次に、各診療科の医師の連携による相乗効果です。これまで、各病棟に点在している各科の専門の医師たちが、先端治療ユニットを通じて連携していくことで医師同士のコミュニケーション活性化につながり、さらにレベルの高い体制が構築されるでしょう。そしてなにより、治験や化学療法を受ける患者本人にとってのメリットが大きいといえます。経験豊かなスタッフのサポートと静かな環境のもと、先進的な治療に集中することができます。また、これまでは日帰りとしていた化学療法を短期入院して受けていただくなど患者さんの希望に柔軟に対応できる仕組みも整えました。
 先端治療ユニットで扱う主な疾患は、白血病や悪性リンパ腫などの悪性腫瘍、肺がんや消化器がんといったがん疾患などです。加えて、難治性の皮膚疾患や全身性エリテマトーデスなど、副作用の高いステロイド薬を要する疾患も多く扱っています。私が科長を務める耳鼻咽喉・頭頸部外科でも、頭頸部のがんなどで症状が進行した患者には、腫瘍内科と連携して化学療法を行います。当科としても、腫瘍内科と連携が取りやすくなる先端治療ユニットは非常にありがたく感じています。

——先端治療ユニットにおけるCRIETO(*1)の役割と、今後の展望をお聞かせください。

 治験の企画から臨床試験プロトコルの組み立て、全体の進行管理において、CRIETOのサポートは大変重要です。例えば、医師主導治験で不可欠な研究資金の確保では、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)や国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の申請など、大変手間のかかる手続きがあり、CRIETOのアドバイスは非常に助かります。また、新薬や医療機器の製品化段階では産学連携が必須になるため、企業との調整でもCRIETOは欠かせない存在です。
 治験には企業が主体となって開発を進める企業治験と、医師が主体となる医師主導治験がありますが、今後はいずれの実施件数も増やしていきたいと考えています。特に、大学病院などで行われる医師主導治験は、真に医療上の必要性から開発が進められるため、世界に先駆けた日本オリジナルの新薬や医療機器の開発が期待されます。一方で、2023年9月からの本格稼働を経て、治験全体を監督する役割ともいえるCRCの不足という課題も見えてきました。これまで以上に医療安全と先端医療の向上をめざして、治験に特化したリソースをさらに充実させていきたいと考えています。


【病院長メッセージ】

東北大学病院 病院長
張替 秀郎(はりがえ ひでお)教授

当院の治験受託数は現在でも国内トップクラスですが、先端治療ユニットの稼働により、企業等からの治験依頼のさらなる増加が期待されます。新たな最先端医療に触れる機会が増えることは患者さんにとって大きな福音となります。当院にとっても、将来承認されるであろう新薬や新たな医療技術による治療を先行して経験することができるため、一般診療においても、常に日本の医療をリードする役割を果たしていくことにつながります。今後、早期の臨床試験も安全に実施できる病棟となるよう、さらに機能を強化していく予定です。本ユニットの設置により、企業主導の治験のみならず、アカデミアでしかできない治験も含めて病院全体が一体となって安全に推進するとともに、研究力をさらに強化し、臨床研究中核病院として革新的医薬品・医療機器開発の中心的役割を果たしていく所存です。


【運用チーム紹介】

化学療法運用チーム
腫瘍内科 副科長
高橋 雅信(たかはし まさのぶ)准教授

化学療法(がん薬物療法)は近年、有効性の点で目覚ましい進歩を遂げています。薬剤開発の中心となっているがん分子標的薬は、現在100種類以上が国内で承認され、有効性の向上が見られる一方、有害事象を含めたマネジメントはより専門化・複雑化しています。また、2019年に看護学会、臨床腫瘍学会、臨床腫瘍薬学会の合同編集による「がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン」が発刊され、医療従事者の抗がん剤の曝露対策の必要性も注目されています。これらの治療・管理マネジメント面での需要の高まりから化学療法専門の病棟チームの設立の重要性が増しており、今回の化学療法運用チームの導入はまさに好適と考えます。最新のがん薬物療法を安全かつ適正に実施できる体制の構築に努めてまいります。

治験運用チーム
血液内科 科長
福原 規子(ふくはら のりこ)特命教授

治験運用チームは、入院を伴う治験の実施を支援する目的で発足しました。新たに開設された先端治療ユニットでは、がんの薬物療法や再生医療等の治療開発を中心に、医師・看護師・薬剤師・CRC(臨床研究コーディネーター)などで構成されるチーム診療を行っています。東北大学病院は臨床研究中核拠点病院として高度で先駆的な医療の開発を使命とし、実施する治験数は年々増え、第I相試験や再生医療等製品の開発、アカデミア発の医師主導試験などに取り組んでいます。安全で質の高い治療開発を実施するために、患者さんの安全を第一に考え、専門病棟のメリットを活かしたチーム診療を実践してまいります。

睡眠検査運用チーム
耳鼻咽喉・頭頸部外科
安達 美佳(あだち みか)病院講師

睡眠検査チームは、各診療科での睡眠検査を先端治療ユニット内でチーム診療の一環として行うことを目的としています。まず、呼吸器内科と耳鼻咽喉・頭頸部外科の病棟で行っている、主に睡眠呼吸障害に対するPSG検査(終夜睡眠ポリグラフィー検査)の一部をユニット内に移行することからスタートしました。個室2部屋を基準を満たす検査室に改装し、精度管理のもと安全で正確な検査を目指します。当院は、日本睡眠学会専門医療機関に認定されています。睡眠医療センターに関連する各診療科から依頼されるCPAP(持続陽圧呼吸療法)の圧設定、埋込型舌下神経刺激装置のfine tune、乳児PSGなど、他院で実施するのは難しい特殊検査にも対応していきたいと考えています。

※取材日は2024年1月24日、肩書は当時のもの。

*1 CRIETO:臨床研究推進センターのこと。安全で有効な薬や医療機器の開発を支援する。

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香取 幸夫(かとり ゆきお)

1988年東北大学医学部卒業。1994年同大学院医学系研究科博士課程修了。2013年より東北大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野教授に就任。2023年より東北大学病院診療担当副病院長、先端治療ユニット長を兼任。

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