※m3.com地域版『東北大学病院/医学部の現在』(2022年12月2日(金)配信)より転載
全高血圧症の10%程度を占めると言われる「原発性アルドステロン症」。東北大学は、1956年に疾患の本邦第1例目を報告したことから国内随一の診療実績があり、全国から多くの患者が集まる。2021年6月、本疾患に対する新たな治療法としてIVR(インターベンショナルラジオロジー)による「経皮的ラジオ波焼灼療法」が保険適用となった。医師主導治験により本治療法を開発した東北大学病院・放射線診断科の高瀬圭教授に、開発の経緯やIVRの未来について聞いた。(2022年9月20日インタビュー、計2回連載の2回目)
――さらに新しい治療の開発に取り組んでいると聞きました。
経静脈的副腎腺腫焼灼術の開発を目指しています。副腎静脈サンプリングでは腫瘍の近くまでカテーテルを入れますので、そのまま血管内から腫瘍を焼灼できるのはないか、という発想のもとで、企業とともに開発を進めています。経皮的CTガイド下RFAと並行して2013年頃から動物実験で基礎研究を重ね、動物実験が安定して自信がついたところでAMEDの研究費に申請し、採択されました。コロナ禍で患者さんのリクルートに難航していましたが、2022年8月、無事にFirst in Humanに成功しました。
――全く新しい治療法なのでしょうか。
RFAは、別の病気に対して背中から針をさす既存の治療がありましたが、経静脈の治療は機器そのものをゼロから作る必要がありました。日本ライフライン社と共同開発を行っています。電流を流すのでプラスチックではなく金属で、かつ血管を突き破らない適度な柔らかさの柔軟型金属製カテーテルが必要となるので、従来型の硬い針よりも難しい開発となりました。京都の職人さんにお願いして作ってもらうなど、まさにものづくりから始めた世界初の治療法になります。治験としては一旦終了していますが、これから実績を重ねて実用化を目指します。
――IVR治療には大きな可能性があるように思います。
IVRは体に優しいことはもとより、短期間に低コストに治療が可能です。超高齢社会が進む中で、低侵襲な医療のニーズはますます高まっています。最近では、緩和医療への応用も注目されています。X線などで痛みのある骨の位置を確認しながら、骨セメントと呼ばれる樹脂を注入して骨の強度を高め、痛みの原因を取り除くという治療です。
――放射線診断科の担当する画像診断については、今後、AIとの競合は課題となるのでしょうか。
AIを医療にどう役立てていくかを考えられるが私たち放射線科医だと考えています。北米で2017年に放射線診断医の若手の希望者が減少したことが話題となりましが、その後、AIの画像を操るのに最も優れているのが放射線科医という認識が広まり、V字回復をはたしています。
日本も同様で、一時的に志望者数は減りましたが、2022年度の専攻医は昨年より40人増えて全国で300人を超えました。というのも、AIの発展には良好な読影画像が必要ですが、そのデータを提供できるのは放射線科医です。これまでもCTやMRIが発展したときに「画像がきれいになったので、誰でも読影できるようになるから診断医がいらなくなるのではないか」と言われたこともありましたが、むしろ画像医療は大きく発展しましたし、業務も爆発的に増えました。AIの発展こそが、放射線診断の発展につながると考えています。
――放射線診断科で情報発信に力を入れているそうですね。
初期研修医や医学部生、これから放射線医になろうという若手、放射線科に興味のある医師に向けて、東北大学放射線診断科を紹介するため情報発信を行っています。当科には、2022年度時点で35人の放射線診断医がいて、24人は「放射線診断専門医」の資格を有しています。9人の若手医師が放射線科専門医を目指して専攻医としてのトレーニング中です。
基本領域研修中は、放射線治療科との密な連携の下に研修を行います。当科では、腕の良い、臨床に役に立つ「放射線診断医」になることを第一に、神経、頭頚部、胸部、乳腺、腹部、泌尿器、産婦人科、心血管、骨軟部、IVR、核医学、AI、の臓器別、モダリティー別の専門家をバランスよくそろえています。そのため、患者さんには全身の専門的画像診断とIVRを、若手医師には放射線診断の全分野の専門的トレーニングを提供できています。 当科のHPには、私たちの診療の様子や教室の雰囲気、各専門分野の紹介を掲載していきますので、ご覧いただければうれしいです。
※HP:http://www.radiol.med.tohoku.ac.jp/Diagnostic_radiology/index.html
――他の診療科や学内他学部との連携が盛んと聞きました。
臨床を中心に行いながら、特に画像診断領域ではさまざまな臨床研究を行っています。例えば、神経放射線の臨床研究では、脳神経外科や脳神経内科の症例、てんかんや認知症などの神経系疾患の症例が豊富で、MRIを中心とした臨床研究を行っています。心臓血管系では、循環器内科、心臓外科と密に連携し、心臓CT、MRIの産学連携を活用した先進的研究を行っています。
さらに、乳腺画像診断では、MRI、超音波の数理的分析、AIを用いた解析により多くの論文業績を挙げており、この手法を泌尿器、婦人科領域疾患への応用も進めています。このほか、呼吸器では、東北大学の数理科学分野と連携した解析を行っていますし、東北大学の青葉山キャンパスにある核医学研究施設「サイクロトロンラジオアイソトープセンター」の専門家と、新規放射性薬剤を開発する共同研究も進めています。
――医療機器開発について今後の展望を教えてください。
副腎IVRのための医療機器開発については既にお話しましたが、東北大学の医工学研究科や歯学研究科との協力で、他にもさまざまな新規医療機器開発を行っています。産学連携は、当院の臨床研究推進センター(CRIETO)の協力で円滑に行えますし、大学全体でも体制が整っています。総合大学である東北大学ならではの体制と思います。当院が臨床研究中核病院であることも大きいですね。研究は、個人の頑張りも重要ですが、こうした組織としての「インフラ」が整っていることが重要です。東北大学には医療機器開発には申し分のない環境があります。
今回の副腎治験では、大学病院の内分泌診療のインフラもフルに整っていました。第一には、全国から原発性アルドステロン症患者さんを集める腎高血圧内分泌科の内分泌チームです。「内分泌疾患」を第一の専門領域とする医師は全国的に決して多くありませんが、当院では強力な「内分泌チーム」が緻密な診療と関連病院連携をしていることが、治験成功の鍵となりました。内分泌病理の専門家と副腎手術の経験豊富な泌尿器科の存在も当院の特徴です。日本の内分泌疾患に悩む患者さんのとりでとして、今後もこの体制は堅持していきたいと考えています。
――IVR医を目指す若手医師にメッセージをお願いします。
新規医療機器のデザインを考えて、実験を重ねながら試作品を改良していき、臨床で患者さんの役に立つに至るまでの過程は本当にエキサイティングでわくわくします。IVR医は、今後こうした開発や新技術の活用を通じて、さまざまな分野に活躍の場を広げると考えています。
初期研修医や医学部生、これから放射線医になろうという若手、放射線科に興味のある医師に魅力を伝えようと動画を作成して発信していますが、IVRはまだまだ一般的な知名度が低いことも認識していますので、新たな試みとして、YouTubeチャンネルを開設しました。今後は若手医師だけでなく一般の方もIVRと当科に興味を持ってくれるようなコンテンツを少しずつ増やして発信していきたいと思っています。ぜひチャンネル登録をしてお待ちいただければと思います。
【取材・文=東北大学病院 溝部鈴(写真は病院提供)】
一部改訂:2023年1月11日