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歯科用パウダージェットデポジション治療機器が薬事承認を取得
歯科用パウダージェットデポジション治療機器が薬事承認を取得
注目ラボ! 2023.08.09

歯科用パウダージェットデポジション治療機器が薬事承認を取得

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工学研究科教授との雑談が開発の始まり CRIETOのサポートで治験が加速

 東北大学病院臨床研究推進センター(CRIETO)で開発のサポートを行ってきた「パウダージェットデポジション(PJD)を用いた新規歯科治療システム」が、2022年9月に薬事承認を取得しました。PJDとは、セラミックスなどの微粒子材料を、常温大気圧環境下でガラスやセラミックスなどの基板に高速衝突させることで、強固に付着させ成膜する手法です。東北大学大学院工学研究科の厨川常元教授(当時)が開発した技術であり、その技術の歯科応用を佐々木啓一教授が発想したところから始まった共同開発です。佐々木教授は、粉体をセラミックスの一つであるハイドロキシアパタイト(HA)に、基板を歯質とすることで、歯と同じ材質で歯の修復治療ができると考えました。「ナノ加工の専門家が持っている研究シーズと、歯科のニーズがうまくマッチングしたわけです」と佐々木教授は言います。パウダーの種類や吹き付ける速度などを試行錯誤し、道筋が見えてきたところで、HA製品メーカーとして知られる株式会社サンギに声をかけ、さらに国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究成果最適展開支援プログラムのA-STEPの採択を受けて、剥離試験や耐酸性試験などを行いました。動物実験を終え、いよいよ治験という段階で、CRIETOがサポートに入りました。「私の場合、研究者や企業とのつながりがあったのでマッチングまでは自分たちでできましたが、治験の実施はCRIETOなしではできなかったと思います」と佐々木教授。「橋渡し研究加速ネットワークプログラム・シーズCの採択を受けるため、申請書の作成など、CRIETOに全てコーディネートしてもらいました。CRIETOは医薬品医療機器総合機構(PMDA)と人材交流を行っているため、医薬品承認申請のプロフェッショナルスタッフが多数います。われわれだけではそのような申請書は書けないので、CRIETOがなかったら今回の薬事承認も難しかったでしょう」。

 そもそも佐々木教授と厨川教授は高校の同級生であり、歯科用PJD装置の開発は二人の雑談から発展したものでした。東北大学の医工連携には長い歴史があり、現在も医学・工学を含めた関連部局間の交流は活発に行われています。「この歯科用PJD開発の話もそうした東北大学の伝統の中で、2009年頃から自然に始まったわけです」。2012年にCRIETOが設立されてからは、シーズC(単年度)に2度採択され、CRIETOのサポートを受けて治験を実施しました。こうして薬事承認を受けるに至った歯科用PJD装置「アパジェット」。これから製品化と普及に向けてサンギが動いています。

佐々木教授が株式会社サンギと共同開発した
「APAJET(アパジェット)」

東北大学伝統の実学尊重の精神 日本の開発技術を東北発信で世界へ

 歯科用PJD装置は、開発の初期段階から、知覚過敏の他にもさまざまな用途があると考えられていました。例えば、変色歯のホワイトニングや、う蝕治療・予防への適応です。薬事承認を取得するため、まずは短期間で治療効果を証明しやすい知覚過敏を対象疾患としていました。今後、製品化が進められる過程で佐々木教授が期待しているのは、知覚過敏の治療機器として販売後、どこまで波及効果が得られるかという点です。実用化が進み、製品が普及すれば、需要の大きい変色歯の審美効果や虫歯予防などへ適応を拡大するなど、可能性が広がります。
 佐々木教授が立ち上げた産学連携プロジェクトは他にも多数あります。例えば、流体科学研究所の圓山重直教授(当時)との共同研究から始まった「在宅医療における新規口腔プラーク除去機器の開発」。水を高圧で微粒子化し、30㎛のミストにして高速噴射することで、歯ブラシによる口腔ケアが難しい要介護高齢者や周術期入院患者のプラークを安心安全に除去することができる装置です。2020年3月に有効性・安全性を評価する医師主導型検証治験が終了し、現在は薬事承認申請の準備をしています。また、未来科学技術共同研究センター(NICHe)の河野雅弘教授(当時)と取り組んだ「ラジカル殺菌歯周病治療器の開発と事業化」は、すでに治験を終えて2023年7月に医療機器承認を取得しました。
他にも、NTTdocomoと共同で行った歯周病発見AI開発、福島県立医科大学との連携を経て薬事承認となった「Tiハニカムメンブレン」など、枚挙に暇がないほど連携プロジェクトは進められています。
 最近も、有望ないくつかのプロジェクトが立ち上がっていると佐々木教授は言います。例えば、半導体を専門とする東北大学の研究者を巻き込んで取り組んでいる研究は、世界を相手にしても勝てるのではないかと自信を示しています。「CRIETOのような連携支援の組織は全国にいくつかありますが、医療機器系の実績がずば抜けて多いのが東北大学です。連携で新しいことを生み出すのは楽しいですね。東北大学の研究者には実学尊重の精神が染みこんでいるので、社会価値の創造に対する熱意が大きいのです」。CRIETO設立当初から数々の実績を積み重ねてきた佐々木教授の、今後の更なる活躍が期待されます。

取材:2023年6月15日 一部改訂:2023年8月9日

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開発責任者|佐々木 啓一(ささき けいいち)

東北大学 参与(元歯学研究科長)、宮城大学 学長
東北大学大学院歯学研究科を修了後、東北大学歯学部歯科補綴学第二講座助手。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学へ留学後、1994年に東北大学歯学部高齢者歯科学講座助教授に就任。2000年に東北大学大学院歯学研究科顎口腔機能解析学分野教授、2010年に東北大学大学院歯学研究科研究科長、2020年より東北大学副学長に就任し、2023年より宮城大学学長を務める。

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