iNDEX

東北大学病院 東北大学病院
  1. ホーム
  2. 取り組み
  3. 注目ラボ!
  4. 世界初・日本発ミトコンドリア病治療薬MA-5のオールジャパン治験

FEATURE

注目ラボ!
04
世界初・日本発ミトコンドリア病治療薬MA-5のオールジャパン治験
世界初・日本発ミトコンドリア病治療薬MA-5のオールジャパン治験
注目ラボ! 2021.12.14

世界初・日本発ミトコンドリア病治療薬MA-5のオールジャパン治験

SHARE

ミトコンドリア病の治療薬は加齢を含めた幅広い疾患の治療戦略にも有望である

 ミトコンドリア病は、生命活動に必要なエネルギーであるATPの80~90%を生産する細胞小器官ミトコンドリアの機能異常により引き起こされ、国内では700人ほどの報告があるのみの希少かつ難治性の疾患です。代表的なミトコンドリア病としては、乳幼児期から精神運動発達遅延を起こすLeigh脳症や、脳卒中様の発作や筋力低下、知能障害が見られるMELAS(mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis, and stroke-like episodes)などがあり、脳卒中、心疾患、腎疾患、神経障害など様々な病態を引き起こします。ミトコンドリア病に対して保険適用が通っている治療薬はMELAS変異に対するタウリンしかなく、有効な治療法の開発が急務となっています。一方、ミトコンドリア機能異常は糖尿病、心臓病、腎臓病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの病態にも関わっていることが知られており、ミトコンドリア病の治療薬が開発されれば、より多くの疾患に対する新たな治療戦略になり得ると期待されています。
 分子病態医工学分野の阿部高明教授らは、希少疾患ゆえにミトコンドリア病治療薬の開発にはオールジャパンで臨むべきと考え、千葉こども病院の村山圭部長、自治医科大学の小坂仁教授、筑波大学の中田和人教授、岡山理科大学の林謙一郎教授らと研究グループを結成しました。同グループは腎不全患者の血中からATPや造血を促進するインドール化合物を見いだし、その誘導体の合成展開とスクリーニングから細胞内のATP産生を促進する化合物MA-5(Mitochonic acid-5)を開発しました。また、MA-5がミトコンドリアの内部構造を維持するために重要な役割を持つミトフィリンというタンパク質に結合し、ATP酵素の複合体形成を促進することでATP産生の効率を高めるというATP合成の新たなメカニズムを世界で初めて解明し、日本、米国、中国で特許を取得しました。MA-5は既存の抗酸化薬とは異なりミトコンドリアROS産生を増加させることなくATP産生を促進させる新規作用薬であり、しかもどの電子伝達系の部分が遺伝的、後天的に障害を受けていても効果を発揮します。従って幅広い疾患に用いることができるのです。

多くの患者が早期実用化を願うMA-5非臨床試験を終え、第Ⅰ相臨床試験

 本薬剤は、岡山理科大学の林謙一郎教授が植物ホルモンとして構造を開発していました。そこで我々は、考えられるだけの類縁化合物200種類を合成し、MA-5より優れ、物質特許のある(patentableな)化合物を探索しました。結果として、MA-5を上回るものは見つけられませんでしたが、MA-5の周辺特許を押さえることができました。現在6件の国際特許成立と14件の特許申請が終了しています。また、今日までに日本医療研究開発機構(AMED)橋渡し研究加速ネットワークプログラムの支援(2014-2017年)により、MA-5がミトコンドリア病患者皮膚由来の細胞の95%に有効である事、ミトコンドリア病モデルマウスにMA-5を投与するとその生存率が向上する事、ミトコンドリア病のマーカーであるGDF-15がMA-5の効果判定に有用である事を明らかにしました。さらにAMED難治疾患対策事業の支援(2018-2020年)を受け、MA-5をGMPレベルで27kg合成して各種薬理試験、動態試験、安全性試験(ラット、サル)等を行い、有効性と安全性を確認して非臨床試験のすべての項目を2019年度に完了しました。そして、AMED革新的医療シーズ実用化研究事業でプロトコルの立案を行い、2022年1月より2年間、第Ⅰ相臨床試験を実施します。AMEDムーンショット型研究開発事業の支援で少数の健康な人を対象に副作用などの安全性や薬物動態について確認します。焦点は第Ⅱ相臨床試験以降です。どこでどのような患者さんにどのような指標で治験を行うのか、またランダマイズの方法など、ミトコンドリア病は一般の治験と違い患者さんの数が限られていることや緊急性があるとはいえ、治験を実施する上で避けて通れないハードルは少なくありません。MA-5は『世界初・日本発のミトコンドリア病治療薬』となるための重要局面を迎えているのです。医師主導治験は、企業が数百億円で行う新薬開発を、研究者自身がその数十分の一で行わなくてはなりません。また審査も厳正に行われます。資金的にもかなり苦しいといわざるを得ません。しかし患者会などを通してお話をするとMA-5を心待ちにしている方は多く、また本薬剤がミトコンドリア病のみならず多くの疾患の治療薬となる可能性を踏まえ、一日も早い実用化をめざして伴走してくれる企業の探索も含め日夜努力しています。

取材:2020年6月17日 一部改定:2021年12月14日

SHARE

開発責任者|阿部 高明(あべ たかあき)

東北大学大学院医工学研究科 分子病態医工学分野 教授
宮城県出身。東北大学医学系研究科医学部卒業、同大学院修了後、米国ハーバード大学に留学、ヒューマンフロンティア財団長期研究員などを経て、2001年東北大学病院腎高血圧内分泌科講師、同科医局長などを歴任し、2008年から東北大学大学院医工学研究科分子病態医工学分野教授、東北大学大学院医学系研究科病態液性制御学分野教授に就任。2021年よりAMEDムーンショット計画プログラムマネジャー。

SHARE

RECOMMENDED

RANKING

TAG

NEWS