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EBウイルス感染症による白血病・リンパ腫治療薬候補の非臨床試験
EBウイルス感染症による白血病・リンパ腫治療薬候補の非臨床試験
注目ラボ! 2021.09.09

EBウイルス感染症による白血病・リンパ腫治療薬候補の非臨床試験

#医薬品開発#研究開発支援

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希少疾患・慢性活動性EB ウイルス感染症(CAEBV)に有効なプロドラッグとして非臨床試験を経て製薬企業への導出を目指す

 長年にわたり抗ウイルス剤など感染症治療薬の開発に取り組んでいる災害感染症学分野の児玉栄一教授は、現在、EBウイルス感染症に対する治療薬S-FMAUの非臨床試験を進めています。EBウイルスはヘルペスウイルスの一種で、日本人の9割以上が感染しているとされていますが、ほとんどの人は無症状のまま経過します。しかし、免疫力が低下している人など、ごく稀に「慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)」を発症する場合があります。CAEBVは、免疫細胞の一種のT細胞やNK細胞にEBウイルスが感染、白血病化して内臓や血管などの炎症、皮膚炎など、さまざまな症状を引き起こす疾患です。このEBウイルスによって引き起こされる病態は、人種によって異なり、CAEBVは東アジアに多い病気とされています。日本での発症は年間100例程度の希少疾患であり、症状も多岐にわたるため確定診断に時間がかかってしまいます。その間にEBウイルスに感染した細胞が、異常増殖し、白血病や悪性リンパ腫となり、多臓器に浸潤することで命にかかわる合併症につながります。CAEBVに伴う難治性白血病を完治に導く可能性のある唯一の治療法は、造血幹細胞移植ですが、体力的な負担も大きく、移植後合併症の危険性も少なくありません。
 そこで、児玉教授らは抗ウイルス剤候補の一種として開発された化合物S-FMAUに着目し、2007年頃から難治性白血病治療薬としての安全性や有効性等を立証する研究を続けてきました。S-FMAUは、EBウイルス由来の酵素によって特異的にリン酸化され、宿主DNA合成を阻害します。つまり、投与後にEBウイルス感染細胞で活性化されるプロドラッグとして、副作用が軽減される点も大きなメリットです。今回は、CAEBVをターゲットとしていますが、加えてEBウイルスが関連する上咽頭がんや胃がんなどへの適応拡大の可能性もあります。すでに化合物とその誘導体は特許取得済みですが、臨床応用に向けてはまだまだ越えなければならないハードルがいくつも立ちはだかっています。新薬の開発には、10年以上の長い歳月と多額の開発研究費を要するため、豊富な資金力と人材を持った製薬企業との共同研究が必須です。児玉教授はS-FMAUの実用化を願い、製薬企業への導出の可能性を高めるために、基礎研究を継続し、多様なデータの蓄積に努めてきました。

コンパニオン診断薬(※1)の確立や類似薬の開発も含めさまざまな角度から完治の可能性を高める

 現在は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の創薬支援を受け、国立成育医療研究センター、東京医科歯科大学、聖マリアンナ医科大学の協力のもとで非臨床試験を行っています。臨床試験の前段階の重要な3本柱となるのが、新薬候補の安全性、有効性、製剤化の検討です。現状としては、2種類以上の動物での安全性の確認や患者がん細胞を移植した免疫不全マウスを用いて効果を調べるとともに、経口剤か注射剤か、投与回数や間隔など、より有効な製剤形や投与方法について併せて研究中です。この非臨床試験をあと2年ほどで完了させ、次の段階である臨床試験に入る予定となっています。限られた患者を対象にしたフェーズⅠ/Ⅱを行い、有効性と安全性を確認した上で製薬企業への導出を目指しています。希少疾患であることを鑑みて、より多くの患者を対象としたフェーズⅢは省略される見通しです。CAEBVのように確定診断や治療が難しい疾患に関しては、患者は規模の大きな医療機関に集中する傾向にあるため、現在の研究体制ならば可能であると想定しています。症状と抗体の値からCAEBVが疑われたらEBウイルスがどんな細胞に感染しているのか、フローサイトメーター(※2)で検討していますが、これは一部の研究機関でしか行えない特殊検査です。CAEBVの簡便な診断のために、コンパニオン診断法を確立しており、CAEBVの診断やS-FMAUの効果を検討することで、承認後は速やかにより的確な治療を届けることができるようになるでしょう。
 さらに、抗がん剤単剤での白血病治療は、効果や薬剤耐性化の面から望ましくないとされ、3~4剤を併用することが多い状況です。S-FMAUの場合も単剤では完治は難しいと言わざるを得ません。類似する治療薬をさらに2~3種開発することでその可能性を高めようと児玉教授はS-FMAUの開発当初から他の治療薬の研究にも着手しています。
 今後、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)への相談や導出先候補となる製薬企業との面談なども始まれば、さらに多忙を極める児玉教授らの業務をCRIETOがサポート。「薬事法のことや書類作成などは、新薬開発についてのノウハウ豊富なCRIETOにお任せできるので、我々は本来の研究に集中することができます」と児玉教授。
 希少疾患CAEBVは、ある人気声優が亡くなったことをきっかけに周知されるようになり、難病指定を求める声も高まっています。現状では造血幹細胞移植が唯一の治療法とされている希少疾患に薬物治療の道を開くS-FMAU。臨床試験への弾みとなるよう、無事非臨床試験を終えてほしいものです。

※1 コンパニオン診断薬:疾患の診断や治療前の患者さんに治療薬の効果を予測するために用いられる診断薬
※2 フローサイトメーター:フローセル内の細胞にレーザーを照射し、細胞の性質や構造を解析する装置

取材:2021年6月17日

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研究代表者|児玉 栄一(こだま えいいち)

東北大学災害科学国際研究所 災害感染症学分野教授
福島県出身。福島県立医科大学大学院修了。アラバマ大学医学部小児科学講座、NIH/NCI レトロウイルス部門、福島県立医科大学微生物学講座講師、京都大学ウイルス研究所、東北大学病院内科総合感染症科、東北メディカル・メガバンク機構講師などを経て、2016 年より東北大学災害科学国際研究所災害感染症学分野教授。東北大学大学院医学系研究科教授を兼務。

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