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東日本大震災の経験が生んだ、東北大学病院の「最先端BCP」
東日本大震災の経験が生んだ、東北大学病院の「最先端BCP」
TUHレポート 2021.12.24

東日本大震災の経験が生んだ、東北大学病院の「最先端BCP」

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東北大学病院では、2014年から継続して、病院の事業継続計画(BCP)に取り組んでいます。国内でも注目を集める東北大学病院のBCPとはどんなものなのか。災害科学国際研究所の江川新一教授に話を聞きました。

――東日本大震災の際、東北大学病院はどんな状況だったのでしょうか。

幸いにも、甚大な建物被害や人的被害はありませんでした。非常電源に移行したので、医療を継続したり、電気を灯したりすることについては、大きな問題はありませんでした。水道も比較的すぐに復旧しましたが、問題はガスでした。空調や調理をガスに頼っていたため、室温の維持や温かい食事を提供するのが困難な状況が続きました。また、緊急手術室は1室確保できたのですが、器具の滅菌をガスで行っていたため、山形大学まで器具を運んで滅菌するという事態が起きました。また、エレベーターも動かず、手術室や病室まで階段で患者を運ばなくてはなりませんでした。病院の職員は、突発的に起きる事態に対して適切に対処することは慣れていますが、今回は病院の機能が損なわれたために、どうしても対応できないことが出てきてしまいました。

―――東北大学病院は東北一円に対して社会的な役割を担っていますが、東日本大震災の際はどういう対応をしたのでしょうか。

最初は、バスをチャーターして石巻赤十字病院に医師と看護師を派遣するということを行っていましたが、道が整備されていない状況で、到着まで4時間かけてたどり着いても、実際に現地でも十分な支援も行えませんでした。そこで、現地の医療資源を補うために、医師や看護師だけでなく、薬剤師や検査技師などを一泊二日で勤務してもらう体制に変更しました。

東日本大震災時当院の災害対策本部(2011年3月)

――BCPを作り始めたきっかけは何だったのでしょうか。

この経験を得て、病院が早急に機能を取り戻せないことは問題だという声が上がり始めました。はじめは有志が、職員それぞれの経験を吸い上げ、重要業務は何が必要か、どんな資源が重要なのかという状況調査を行い、2014年にBCPのデータベースとしての原型が出来上がりました。

――東北大学全学のBCPが策定されたのは、2017年11月です。それまでにどんな動きがあったのでしょうか。

東北大学病院は大学の中でも先駆けて、BCPの策定にあたりました。けれども、有志のメンバーだけでBCPのブラッシュアップを重ねていくのには限界があります。BCPは、トップダウンで策定するという意思決定が必要です。災害研としても大学本部に働きかけを行い、2016年に東北大学全学でBCPを策定するという通達が行われました。東北大学病院では、それを受けてBCP委員会を発足したのです。

――BCP委員会は、毎月行われています。

そうですね。BCPは常にリスクの洗い出しを行い、刷新することが必要です。病院では、医師や看護師だけではなく、薬剤部、検査部、放射線部、手術部、材料部、輸血・細胞治療部、メディカルITセンター、栄養管理室、事務部などの診療科・部門が参加して30分間会議を行っています。毎日の業務があるなか、月に1度でも集まるのは大変なことだと思います。けれども、これもトップダウンで「業務としてBCPを策定しなさい」という指示があるからこそできることです。BCPは次回で第4版となりますが、毎回新しい課題が出てきます。

BCP委員会メンバー

――これだけ頻繁にBCPについて会議を行う病院は、全国でもなかなかないのではないでしょうか。

東北大学病院ならではの取り組みだと思います。私たちは東日本大震災という非常事態を経験しましたが、ほかの地域ではなかなか我がことにならないのではないかと思います。2020年4月には、地域の「災害拠点病院」に指定された病院は、必ずBCPを持っていることと義務付けられました。BCPをつくるためのひな型やマニュアルはありますが、それに当てはめるだけでは、実際非常事態が起きた時に不十分である可能性もあります。施設の設備や人員配置などの状況は常に変化していくものですし、常に役にたつBCPであるためには、最新にしていく必要があります。一見、大変なことのように思いますが、これをやることが防災に対する投資であり、コスト減につながるのです。

――東北大学病院がBCPを維持していく社会的な役割は何だと思いますか。

災害拠点病院として自立する防災能力だけでなく、情報と支援の窓口となり、地域医療を支えることも東北大学病院ならではの役割です。いざ非常事態になった時に、県内の基幹病院にどのような支援ができるかということは、BCPにも組み込んでいます。業務が増える事態になっても、通常の業務を回せる状況にするには、綿密な計画が必要です。そういう意味でも、当院のBCPは地域に対して果たすべき役割であり、社会的意義のあることだと考えています。 被災した大学病院としての経験や知見を参考にしてもらえるよう当院のBCPの公開版をWebで公開しています。また、参考情報として当院が東日本大震災以降にとってきたリスク対策と改善点も公開しています。

東北大学病院BCP第3版

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江川 新一(えがわ しんいち)

福島県出身。1987年東北大学医学部卒業、同大学医学部第一外科入局後、米国ピッツバーグ大学留学、東北大学病院消化器外科講師などを経て、2006年消化器外科学分野准教授。2011年東日本大震災において東北大学病院災害対策本部で活動。2012年より災害科学国際研究所災害医療国際協力学分野教授。2016年より東北大学病院BCP委員会副委員長。

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