舌の表面からガス発生
浮世絵に女性が歯磨きや舌清掃をしている様子が描かれたものがあります。口臭は紀元前から人々が関心を寄せる症状でした。現在、口臭とは『口あるいは鼻を通して出てくる気体のうち、社会的容認限度を超える悪臭』と定義されています。その原因の8割から9割は口腔(こうくう)(口の中)が原因です。
歯周病にも関連
口腔には700種類近くの化合物がありますが、口臭の原因は揮発性硫黄化合物です。細菌が唾液・血液・剥がれ落ちた上皮細胞・食物中の硫黄を含むアミノ酸を分解することで作られます。揮発性硫黄化合物の中でも硫化水素とメチルメルカプタンが口臭の主な原因です。高い揮発性とごく微量でもヒトの嗅覚が感じやすい性質を持つため、といわれています。硫化水素は卵が腐ったような、メチルメルカプタンは野菜の腐ったような、臭いがします。
こうしたガスが発生する場所は舌苔(ぜったい)がほとんどです。舌の表面は乳頭と呼ばれる微小な白い突起で覆われ、多くの溝が形成されています。この突起は上皮が厚く、溝の中には剥がれ落ちた上皮細胞、唾液成分、細菌、食事由来成分が付着します。これが舌苔と呼ばれ、舌の後方部で付着量が多くなりやすいものです。舌苔に生息する細菌がタンパク成分を分解することで特に硫化水素が多く発生します。
歯周病がある場合は、硫化水素と高い濃度のメチルメルカプタンが発生します。歯周ポケットから出た白血球の死骸や歯周病原細菌が唾液に混じり舌の表面に付着するため、歯周ポケット内だけではなく舌苔でも揮発性硫黄化合物が多く発生するのです。
口臭の原因となる全身疾患として、体内の代謝産物が呼気に出てくる糖尿病、尿毒症、肝硬変などが知られています。ただし病状が進行した状態でないと口臭は観察されません。食道と胃の境界である噴門は飲食物が通過するとき以外は閉じられているので、通常は胃内のガスが口臭の原因になることはありません。
自分で気付かず
慣れてしまうので口臭を自分の嗅覚で正しく認識することは困難です。そのため、実際に口臭が強いのに気が付かないこともあれば、口臭が無いにも関わらず周囲の人のしぐさなどがきっかけで心配になる場合もあります。自分の口臭が気になるならば、かかりつけの歯科医に相談してお口の日頃の手入れを工夫してみましょう。必要であれば口臭専門外来を受診することもよいでしょう。
口臭は口腔環境の指標にもなります。歯磨きはもちろんのこと、浮世絵美人を参考に気持ちの良い舌清掃も取り入れて、お口を爽やかに保ちましょう。
河北新報掲載:2019年7月5日
一部改訂:2023年7月4日