「美術館は心の病院」という言葉は、芸術家・故猪熊弦一郎氏が、自らの美術館の落成式で語った言葉です。現代の私たちの病は「心と体と環境」から引き起こされています。真に健康であるためには、この3つのバランスを、文字どおり健康な状態に保つこと。特に心の健康には芸術の力が不可欠であるということです。アート&デザインを仕事とする私にとって、この言葉は芸術家としての社会的責任のみならず、日々の暮らしの中で、芸術的感動や新鮮な刺激を受けていますか? と問われているかのようです。芸術大学としても、忙しい現代人がアートに触れる環境作りやデザインの社会実装を進めていかなければなりません。医師の稲葉俊郎氏を芸術監督に迎えた昨年の地域芸術祭「山形ビエンナーレ2020」では、全国の医大生と芸大生によるディスカッションが行われ、医学と芸術が内包する多くの共通課題を知り、2つの学問の源流が同じであることを感じました。いつか病院と芸術センターを調和させた「心と体」に作用する"未来の病院"を創ってみたいと思っています。
中山 ダイスケ
東北芸術工科大学学長、クリエイティブ・ディレクター、アーティスト。1968年生まれ。
アート、デザイン、ブランディングなど、幅広い分野で活動。2018年より学長に就任。山形ビエンナーレの総合プロデューサーも務める。
※東北大学病院広報誌「hesso」31号(2021年8月30日発行)より転載