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気になる症状 すっきり診断

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気になる症状 すっきり診断 2023.07.26

老年症候群

加齢・老年病科 院内講師|冨田尚希

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危険なサイン見逃すな


 がんや脳卒中、心筋梗塞など、自分の年齢で生じることの多い「病気」を知り、その予防や早期発見、早期対応を心掛けることは健康を守るために重要です。65歳以上の高齢期では「病気」を考えることに加え、「症状」を考えることが重要になります。その理由には次の三つが挙げられます。

「年のせい」に要注意

 (1)病気だけでなく「正常な加齢変化」が症状の発生に関与することが増える(2)一つの症状が複数の原因により生じることが増える(3)病気の症状が典型的なものが減り、非典型的なものが多くなる-の三つです。これら高齢期の症状の三つの特徴を念頭に置きながら、目の前の症状について考えることが大切です。

 高齢期の症状で原因疾患が一見明確でない場合、「よくある加齢変化である」「どうせ治らない」と考え、何ら対策を取らずにやり過ごしてしまいやすい傾向があります。その結果、病気の早期発見・早期介入の機会を逸したり、改善可能な症状がそのままになり、日常生活の制限につながってしまったりする危険性があります。特に「年のせい」という言葉がこの状況を誘発しやすく注意が必要です。

 老年医学の分野では、高齢期に多くみられ、対処せずにいると生活の自立度低下につながり得る症状や症状の組み合わせを「老年症候群」と呼んでいます。例えば「白髪」は加齢とともに増える所見ですが、そのままにしておいても生活の自立度が低下するわけではないため老年症候群には含まれません。「認知症」や最近注目されはじめた「サルコペニア」は老年症候群です。従来、筋肉の病的変化で生じる病気は「ミオパチー」との呼称でまとめられていました。これに対し、病気に限定せず、動かないことにより移動能力の低下、転倒・骨折を招き、生活に制限が生じる可能性が高い筋力や筋肉量の組み合わせの状態をサルコペニアと呼んでいます。

薬の使用に注意

 忘れてはならないのが、薬物使用に関連する老年症候群です。これは使用中の薬物の作用に関連した症状(便秘、口の渇き、目のかすみなど)を指します。これらの症状を病気や加齢によると考え、放置・または薬を追加することでさらに問題が悪化し、最終的に生活の自立度低下にまで至ることがあるものです。

 2018年に厚生労働省から「高齢者の医薬品適正使用の指針」が公表されています。総論編の10ページに表1として、薬剤起因性老年症候群と主な原因薬剤がまとめられています(注意:この指針は医療従事者向けのものになりますので、薬剤を調整する際には必ず担当の先生にご相談ください)(高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/kourei-tekisei_web.pdf)。

 また老年医学会のウェブページには、「多すぎる薬と副作用」という一般向けパンフレットが公開されており参考になります(URL:https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/20161117_01.html)。このパンフレットは、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」の総論部分を中心に、注意点や薬物リストを8ページの一般向けパンフレットとしてまとめています。医療介護関係者にもご利用いただけるものとなっています。

 世界保健機関(WHO)は「健康」であることを、単に「病気がないこと」だけでなく「機能的な生活を過ごしていること」を要件として挙げています。病気があるかないか、ということに加え「老年症候群=危険な老化のサイン」がないかも考えてみましょう。

河北新報掲載:2019年8月2日
一部改訂:2023年7月26日

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冨田 尚希(とみた なおき)

愛知県出身。2001年、信州大学医学部を卒業し、東北大学老年・呼吸器内科に入局。平鹿総合病院にて内科初期研修。大学院博士課程を卒業後、2007年〜2008年まで国立保健医療科学院にて公衆衛生学修士号取得。2009年東北大学病院老年科助教、2013年同院内講師、2017年より東北大学病院加齢・老年病科院内講師。

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