鍵は病院間の意識合わせと一般市民の理解浸透
張替)安藤先生、クリニックでは急性期医療が必要な患者さんは大学や他の急性期病院に紹介されていますが、その後の後方支援として、クリニックではどのように患者さんを診ているのですか。
安藤)さまざまな性格のクリニックがある中で私のところは総合診療医的な役割を担っていると思っています。在宅診療もやっています。紹介した患者さんが自宅に戻り、必要ならば在宅医療として対応しますし、施設に入所された患者さんを訪問して診ることもあります。紹介した患者さんはどうなったかなと気になりますから、自分のところに帰ってきてくれれば、どのような形であれ診ます。色々な病気がありますが、一旦自宅に戻られた患者さんの病状が悪化した時は病院に気軽に引き受けてもらえる、そういう関係性があると安心ですね。
張替)そうすると、クリニック側のウイングを広げるよりもまずは急性期・慢性期の病院との連携を深めていくのが優先課題なのでしょうか?
藤森)大学病院の患者さんの特性を考えると、がん患者さんがだいたい3分の1、その他は難病の患者さんなどで、生活習慣病はあまりいらっしゃらないですよね。10年程前、がんの病診連携が政策的に始まったときに、診療所で診ることができるがん患者さんはどれくらいか、という調査がありましたが、診療所にお願いできることはとても少ないという結果が出ました。もちろん糖尿病や高血圧などの生活習慣病では結果は異なりますが、少なくともがんに関しては、大学が得意としている疾患レベルで診療所の先生と連携を組むのは簡単ではないということがわかります。
張替)仙台市全体では急性期が過剰で役割の整理ができないという課題がある一方で、大学病院ではかなり特殊性の高い患者が多いということですね。実際に診療していると、大学病院での治療を終えた患者さんをまずはワンクッションとして受け入れてくれる後方病院を探しますが、大変苦労しています。ただし再来の患者さんの中に一定数はクリニックにお願いしたい患者さんもいます。そこをうまくお任せするにはどうしたら良いでしょうか。
藤森)やはり意識合わせだと思います。大学病院側も、どのような患者さんをお願いするべきなのかという工夫が必要で、その上で、何かあったら必ず大学で引き受けますから一緒に診ていきましょうという関係づくりが大切だと思います。例えば、年1回のPET 検査は大学病院で対応して、経口抗がん剤と腫瘍マーカーの検査はクリニックでお願いします、というようにレベル感を探って棲み分けをしていくということです。多くの患者さんは生活習慣病も合併されていますから、クリニックで全人的に診ていただく方が良いのだろうと思います。ダブル主治医のようなことですよね。
安藤)そうですね。経過が安定している患者さんでも毎回大学病院に行くのは大変なことですから、その間、他の疾患も含めて、内科的なところを診るのはむしろ診療所が得意とするところです。一概には言えませんが、総合診療をやっていると、他の病気を見つけることがあります。大学病院にずっと通って専門医を受診し続けている方は、意外と見落とされることがありますよね。街のかかりつけ医が定期的に全身を診ることで、別の病気を見つけるという役割もあると思います。
藤森)我々大学病院は点で診て、診療所は面で診ていますからね。張替:確かにそれは大事なことで、そういったフォローをしていただけると良いですね。大学病院はスペシフィックな診療は得意ですが、その後の診療が100点かというとそうではない。それでは患者さんがハッピーとは言えません。お互いに補完的に診ないとベストにならない。ただ、今のところスムーズというところまではいっていない。安藤先生、今度大学病院で患者さんの紹介を受けるときに、症状が安定したら診てもらえますか、というチェック欄を設けることにしましたが、診療所の先生方からみていかがでしょうか。
安藤)それはもちろん多くの診療所の先生が診ると回答すると思います。
藤森)診療所の先生方も自分の患者さんが戻ってくると安心でしょうし、患者さんも戻りやすいですよね。全く知らないところに逆紹介しようとしても、患者さんに納得していただけないのではないでしょうか。
張替)それは大学病院の各科の主治医が苦労しているところです。
藤森)今のところ一般市民に病診連携、病病連携という考えが染みていないですよね。治療のフェーズで受診する病院が変わるいうことへの理解が進めば全体の動きも変わってくるのではないでしょうか。
張替)大学病院としても戦略を持ちつつ、スムーズな逆紹介のシステムを作ること、それに加えて患者さんの意識の変化が必要ということですね。