2019年5月「頭頸部腫瘍センター」を開設いたしました。センターの現状と今後の展望について、コアスタッフの4人の医師と歯科医師に聞きました。
頭頸部腫瘍センターが設置された経緯と、特徴について教えてください。
大越:高齢化に伴い、近年頭頸部のがんは増加傾向にあります。頭頸部は聴覚、嗅覚、味覚、咀嚼、嚥下、呼吸、発声など、さまざまな機能を担う場所なので、多くの診療科が連携して治療にあたる必要があります。それまでも「頭頸部キャンサーボード(p10・11)」として、診療科間のカンファレンスを行ってきましたが、センターを設置したことで、よりスムーズに連携できるようになりました。
神宮:そうですね。キャンサーボードで毎週顔を合わせるので、それぞれの診療科のプロの意見を、より気軽に聞けるようになったと思います。
西條:毎週キャンサーボードを実施しています。これは、ほかのセンターと比べても頻度が高いのではないでしょうか。頭頸部がんは病態が変化しやすいがんです。診療科を横断する枠組みをつくり、頻繁に議論するようになったことで、必要な治療に、より早くアクセスできるようになったように感じています。
永井:医師だけでなく、歯科医師がいるのも特徴のひとつですね。頭頸部がん、特に口腔がんは歯科検診で見つかることも多いので、がんを発見したあと、すぐ治療に移ることができます。
大越:歯科が加わったことで、治療後の再建についても、よりよい方法を選択できるようになりました。
永井:顎を切除したあと歯をどうしたらいいか、かみ合わせをどうしたらいいのかなど、連携しながら治療を進めることができます。最近では、インプラント(人工歯根)技術が発達し、正常にかめるように再建ができるようになってきました。治療後のQOLを上げるという観点からも、連携する意義は大きいですね。
キャンサーボードでは、どのように議論が行われているのでしょうか。
大越:担当医師が症例を発表し、カルテや患部の写真を見ながら、皆で意見を出し合っています。多い時だと20人以上が集まって議論しています。がんの治療は病巣を切除するのが一般的ですが、頭頸部がんは年齢やご本人の希望などで、切除できない場合もあります。そういう時、放射線治療や抗がん剤の専門家が近くにいるのはとても心強いです。それぞれの治療にどんなメリットやデメリットがあるのか、それぞれの専門知識を出し合って、さまざまな議論を重ねています。
神宮:実際に、がんを切除できず、放射線で治療することになった事例もあります。その時も、キャンサーボードで治療の方針をよく議論したのを覚えています。議論しながら放射線治療を進めたことで、その方の希望に沿った最善の治療法となったと感じています。
西條:抗がん剤治療は、さまざまな副作用を伴う治療です。薬の種類によって副作用が変わるのはもちろんですが、患者さんの体の状態によっても細かい調整が必要になることがあります。薬を出して終わり、ではなく、どんな治療歴があって、どんな持病があるのか把握しないといけないので、キャンサーボードの存在は大きいです。これまでの経緯を細かく知り、議論することができるので。
頭頸部腫瘍センターは、今後どのように発展させていきたいと考えていますか。
西條:頭頸部がんの患者さんは、その病気や治療によりかむ、話すなどの機能を喪失することや、容姿の変化などから精神的なストレスを抱えて生活されている方が多いと思います。多くの診療科や多職種が連携し、がんだけではなく患者さんの生活を含めて、より包括的にフォローできるようにしていければと思っています。
永井:治療中、治療後も合わせて、さまざまな職種の人が関われるようになったらいいですね。キャンサーボードに参加してもらってもいい。
神宮:頭頸部腫瘍センターのキャンサーボードで議論されている内容を、多くの医療関係者に知ってもらう取り組みも効果的と思います。東北大学病院には東北各地の患者さんが受診しますが、治療のために県をまたいで来院するのは、患者さんにとって大きな負担です。地元で診ることになった医師と意見を交わしたり、相談にのったりできるようになったりする機能があったらいいですよね。キャンサーボードで蓄積された情報を※IoTにより地域の医師と共有していくという取り組みも考えられると思います。
頭頸部がんの予防のために、できることはありますか。
永井:口の中は、ほかの内臓と違って目で見えます。定期的に歯科検診に通って、口腔がんの早期発見に努めて欲しいと思います。また、放射線治療をする過程で、歯周病菌が原因で顎の骨が腐ってしまうこともあります。口内環境の維持は非常に重要です。
大越:お酒を大量に飲む人、ヘビースモーカーの人は要注意です。声がかすれてきたり、飲み込みにくいと感じたりしたら、早めに耳鼻科を受診してください。
※IoT(Internet of Things)さまざまな物に通信機能をもたせて接続連携させること