いつまでも、生き生きと。

2016.02.12

感覚は加齢によって衰えてくるもの。
高齢化で診療
の現場はどのように変化しているのか、
若さを保つ
ためのヒントなど、3 人の教授が語り合いました。

 ―超高齢社会を迎えて、診療の現場にはどのような変化がありますか?

相場(皮膚科) 加齢による皮膚の変化には、年齢を重ねることによる老化と、光にさらされて老化する光老化の2つの側面があります。このうち問題となるのは光老化です。長生きすればする程、日光にあたる時間が長くなりますので、患者さんは必然的に多くなります。私が新人だった3 0年前と比較すると、患者数は格段に増えています。

中澤(眼科) 眼の機能は加齢とともに自然に低下していきます。中でも、白内障、緑内障、加齢黄斑変性症などは老化とともに増えてくる病気で、失明率も上がってきています。治りにくい病気が増えてきたという印象です。

香取(耳鼻咽喉・頭頸部外科) 私たちは元々、高齢者と小児の患者さんが多いのですが、難聴、味覚障害、飲み込みの障害など、特に加齢による機能障害に悩む高齢の患者さんが増えていると感じます。

中澤 眼科では、視覚の重要性が増してきたという社会背景もあります。定年後にパソコンをたしなまれる方も多いですし、インターネットなどで目を使う機会が劇的に増えていることも一因と考えています。

相場  患者さん側の意識という点では、例えばテレビ番組などで皮膚がんが取り上げられたとたんに、外来患者数が増えることは多々あります。皮膚がんは皮膚科が診る、というように専門性に対する社会のニーズが高まって、患者さんが集中するということもあるかもしれません。

香取 聞こえなども同様で、機能障害に対する患者さんの意識に変化を感じます。これまでは、聞こえにくいけど年だから仕方ないと思っていた方たちも、病院に足を運ぶ割合は高くなっているのではないでしょうか。

 ―そういった状況の中で、現在どのような診療に力を入れていますか?

相場 昔ながらの軟膏を塗って治すような水虫や湿疹の患者さんに加えて、難治性の自己免疫疾患や腫瘍など全身的な疾患が増えてきています。特に悪性腫瘍は、最新の手法で早期に適切に診断することを大切にしています。治療に関しては、これまで切除などの外科的な分野に力を入れてきましたが、最近は医学が非常に進歩して、昔はなす術がなかった悪性黒色腫や扁平上皮がんも、分子標的薬などの新しい薬が登場して予後が顕著に改善しています。

香取 私たちの科でも、腫瘍の治療は注力していることの一つです。特に腫瘍内科や歯科、口腔外科といった関連する他の診療科による複数の治療を組み合わせて行う集学的治療を特徴としています。また、難聴の方の耳鳴りの治療や先天的に聞こえない方に対して、工学系の研究者と協同で人工内耳の研究も進めています。また、私が専門とする摂食・嚥下障害では、飲み込みの治療や訓練などを内科、リハビリテーション科、歯科と連携して行っています。これは大学病院だからこそ可能な高度な医療で、現在は院内の患者さんを対象としていますが、徐々に地域の患者さんにも対象を広げていきたいと考えています。

中澤 眼科では、まず専門性を重視しています。専門外来のチームをつくって、診療のレベルを上げることを目標としています。私の専門は緑内障ですが、患者さんの半数が現状の治療では進行を止めることができない病気です。新たな検査法や創薬研究の成果をできるだけ早く一般診療に導入できるように心がけています。

若さを保つための秘訣を教えてください。

相場  厚化粧ですかね(笑)。つまり、紫外線を遮ることです。ただし日光を浴びる量が不足しすぎるとビタミンDの欠乏が心配されます。ビタミンD は紫外線によって皮膚で活性型になりますが、ホルモンの様な働きがあり、様々な疾患の発症や予後を左右します。皮膚にとっては紫外線を積極的に遮った方がいいことは確かですが、ビタミンDにも注意する必要があります。そのバランスは専門家の間でも様々な議論があり、判断が難しいところです。

中澤 目の健康を保つためには、日常の中で病気のかかりやすさや、より病気を悪くする要因を知り、取り除く努力をすることが必要です。目の病気には、たとえばストレスや自律神経の乱れ、近視は大敵です。常にポジティブ思考で、笑っていると長生きできると言われていますが、目の健康にも効果的です。また、30㎝ 以下の距離でものを見続けると近視になりやすいことが分かっています。携帯ゲームなどが大きく影響しているかもしれません。学齢期における近視の割合はぐんぐん増えています。特に成長期の子どもたちには、30㎝ 以上離してものを見るようにしてもらいたいです。

香取 よく聞くこと、よく話すことですね。ガード下などの大きな音は逆効果ですが、静寂な時間を過ごすより適度に音楽を聞いていた方が耳鳴りが起こりにくいです。静かだと脳が興奮するという仮説があり、それを抑えるために音を入れた方がよいと言われています。喉も同じで、楽しく歌ったり、会話を楽しんだり。おしゃべりな人のそばにいると、いいかもしれません(笑)

今後、各科の役割はどのように変わっていくでしょうか。

相場 これまで以上に診断が重要になってきます。内科や外科がCT を撮るように、皮膚から体内に迫り、診断にヒントを与えることができます。また治療も、新しい薬剤が今後も次から次へと出てくるでしょう。皮膚科の診療は非常に高いレベルが求められてきますが、それにきちんと対応できる医師を育てることが大学病院皮膚科の使命です。また、再生医療も極めて重要です。皮膚は移植技術が既に確立していますが、東北大学で、皮膚由来の多能性をもつ幹細胞「MUSE 細胞」が発見され、様々な応用研究が行われています。自分の体を傷つけずに、欠損した皮膚を再生できる技術の開発を進めていきたいです。

中澤   眼は全身の窓と言われていて、体に傷をつけずに血管と神経の状態を直接観察できる唯一の場所です。その精度は進化していて、血管の評価は1ミクロン単位で可能です。全身疾患に対する有用な医療情報を提供して、眼科以外の治療にも貢献していきたいと考えています。もう一つ重要なのは、QOL(quality of life :生活の質)です。寿命を延ばすだけでなく、日常生活をいかに快適に送れるようにするかということも、感覚器を扱う診療科が担う課題の一つです。我々のテーマは「失明ゼロ」。患者さんの生活の質を守ることが一番の目標です。

香取 高齢化により内科や総合診療の需要が高まっていますが、その中で、生きて行くために必要な栄養摂取や呼吸をきちんと診ることで、先進的な医療に貢献できると考えています。自分たちだけで体全体を治すことが難しい場合でも、機能改善につながる治療を提供する、またQOL を維持することが我々の使命です。地域の医療器機関や、メディカルスタッフに対する教育にも尽力していきます。

11月24〜30日は
医療安全推進週間
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