私には、「絵」のセンスがありません。描くのも観るのもダメです。小学生の時から美術の成績はいつも「3」。自分が描く絵は、絵心ない芸人の絵を少しマシにした程度で、音楽で鳥肌が立つことはあっても、絵画で鳥肌が立つことはありませんでした。だからこそ、「絵」に強い憧れがあります。
私と「絵」の距離を縮めたのが、原田マハの小説「暗幕のゲルニカ」です。パブロ・ピカソによる「ゲルニカ」。この名画は、スペインの小村、ゲルニカが空爆を受けて破壊されたことに怒ったピカソが、縦約370センチ、横約780センチの巨大なキャンバスに、もがき、のたうち回る人間や動物たちをモノクロで表現し、パリ万博に展示した作品です。名画にまつわる物語は、単なる憧れから、画家の苦悩や喜びを表現する作品に変換され、同時に本物を見てみたいと思うようになりました。原田マハは、絵画にまつわる作品が多いことが特徴です。「たゆたえども沈まず」「リボルバー」はゴッホがモチーフですが、リトグラフや美術館にまつわる物語もあります。その他、映画になった「キネマの神様」、スピーチをテーマにした「本日はお日柄もよく」など、読みやすく、ムネアツの物語が多くあります。
本を読む時、イメージを浮かべる人も多いと思いますが、私が原田マハの物語を読む時は、美しい色がついたイメージになります。定年後は、買ったまま積まれている本をゆっくり読んで、本物の名画を観に出かけたいな、と思っています。