骨や周辺組織の温存を
2016年歯科疾患実態調査(厚生労働省)によると80歳で20本の歯を有する人の達成率は51.2%となり、その3年前の前回調査の40.2%から11%の増加、そして約20年前の約5倍にまで上昇しており、日本歯科医師会が取り組んできた「8020運動(80歳で20本の歯を残す)」の成果が出ています。一方で、一人平均喪失歯数をみますと、50歳未満までは1本未満であるものの、50歳以上で2本となり、年齢の上昇とともに喪失歯数も増加してきます。
量と質が重要に
歯を失う理由は、虫歯(う蝕(しょく))と歯周病が二大疾患であり、それ以外には外傷、腫瘍、先天性欠損などがあります。代表的な前者の二つの疾患は突然歯を抜かないといけないわけではなく、歯科医師からの説明のもとに予定処置して歯を抜くことが多いと思います。その際には抜いた後に何で補うかをよく相談して決めることが重要です。もしインプラントを検討しているのであれば、後続するインプラント治療のために、なるべく骨や周囲組織を温存しておく必要があります。また、歯を抜いた後は、必ず骨は萎縮するものなので、あまり長い時間放置しておくことは良くありません。
インプラントに必要な骨には骨量と骨質の二つの要素が重要となります。骨量については、標準的な長さと太さ(径)のインプラントを入れるための量が必要ですし、その骨がインプラントを入れる方向に合っていることも重要です。また、骨質には非常に硬すぎる骨、軟らかすぎる骨というのはリスク因子となります。現在は、歯科医院でも歯科用コンピューター断層撮影(CT)が設置されるところが多くなり、従来のX線では分からなかった立体的な評価ができるようになってきています。
リスクも考えて
骨粗しょう症の方でインプラントができないのではと心配される方がいますが、現在のところ、骨粗しょう症そのものがインプラントの成功率に影響を与えるという統一見解はありません。しかしながら、骨粗しょう症に対する薬剤の中で、ビスフォスフォネート系薬剤に関しては、一部の症例で顎骨壊死(えし)を引き起こすことがあり注意が必要です。事前に歯科医師ならびにかかりつけ医と相談してから治療を進めることをお勧めします。
デジタル画像技術の発展に伴い、インプラント治療の安全性や手術精度は向上してきています。しかしながら生体内に人工物を埋入するということは、さまざまなリスクも含まれているので、そのメリットとデメリットを十分に理解して治療を進め、健康長寿として長く充実した生活を楽しみましょう。
河北新報掲載:2019年10月18日
一部改訂:2023年9月13日