がん治療を支える医療の一つである緩和医療。患者さまとそのご家族に残された時間がより充実するよう、医師や看護師、ボランティアなどの様々なスタッフがチームとなってケアしています。季節ごとに開くコンサートでは、楽しいひと時を過ごしていただけるように、とスタッフ自らが心をこめて演奏しています。病棟のテラスで愛用の楽器と一緒に、「へっそポーズ」。
当院西17階病棟にある緩和ケア(※)病棟。主としてがん終末期の患者さまとそのご家族の皆さんの療養生活を支援する目的で、2000年10月に国立大学病院としては全国で初めて開設され、これまでにのべ2,200名を超える方々が利用されています。
日本にある321カ所の緩和ケア病棟のうち、大学病院に設置されているのは、わずか8カ所。緩和ケアに携わる医療者の育成も、当院が担う重要な役割の一つです。医学生、看護学生、研修医、大学院生、専門・認定資格取得希望者など多くの方が緩和ケアを修練するために集まります。緩和ケアの推進・普及に努める緩和医療部中保利通部長(写真一列目中央)は、当院の緩和ケアの特徴について次のように話します。
「医療者にとっては、入棟中の患者さまのお姿から症状コントロールに関するテクニカルなことを学ぶだけでなく、ご自分の病を通して持つに至られた様々な受け止め方を直接聴かせてもらうことでインスピレーションを感じ取りやすい環境であると言えます。また、患者さまを支援する体制としては、多くの職種が関わっているということも特徴の一つです」。
医師や病棟・外来看護師、看護助手だけでなく、ボランティア、精神科医、臨床心理士、リハビリテーション部スタッフ、薬剤師、歯科医師・歯科衛生士、音楽療法士、栄養管理士などの連携が欠かせない緩和ケア。それぞれの職種が患者さまのQOLを高めるため、もしくは低めないための努力を惜しみません。
チームの舵を取る中保先生が日々の診療で最も大切にしているのは、「患者さまに安心感を早い段階で持ってもらう」ということ。そのためには、それぞれの職務をきちんと遂行することが必要と中保先生は話します。
「医師であれば病状を的確に把握し、何が今の苦しさを招いているのか、そのからくりを患者さまにわかってもらうよう努めることです。さらにどうすればその辛さが軽くなるのか、その具体的なプランをできるだけ難しくならないように説明することです。心配の種を早い段階で摘み取ることができれば、いたずらに不安感を募らせることもなくなると思います。自分は大勢の医療スタッフに守られている、と感じることができれば不安でいっぱいだったお顔におのずと笑顔が戻ってくるのではないでしょうか」。
高齢化社会を迎え、緩和ケアのニーズはこれからも一層増えていくとされています。自分が、家族が、必要とする日がいつ訪れるか分かりません。中保先生は、こんなお話も聞かせてくださいました。
「元気な方たちは『自分だけは例外でずっと生きられる気がする。機械の故障を直すように、病気も治療を行うことによって元通りに治すことができるだろう。最後まで病気と闘い続けることこそ最も尊いこと』と考えやすいものです。でもよく考えてみて下さい。生き物には寿命があるのです。『生者必滅会者定離』という言葉をしばらく眺めてみましょう。がんと知って限られてしまったように見える残り時間は、実は生まれた時からカウントダウンが始まっているわけです。がんと診断されたなら、それは自分の生き方を振り返るきっかけをもらったということです。緩和ケアは、痛みなどなく落ち着いてご自分のこれからをじっくり考える環境を整えるための様々な取り組みです。必要になられましたらお気軽に相談窓口へお越しください」。