地域の最後の砦として
―当院の循環器内科の特徴を教えてください。
心臓病は、あっという間に悪くなりますが、良くなるときもグングンとよくなる、変化が非常に速い病気です。どんな状況でも迅速かつ的確に対応できるようにするため、私たちは虚血グループ(狭心症、心筋梗塞など)、循環グループ(心不全など)、不整脈グループの3つの専門グループを設け、それぞれが高いレベルで、横に連携しながら診療する体制をとっています。
当院は、東北地区はもとより、広く東日本の循環器医療の最後の砦としての役割を担っています。特に心肺同時移植に関しては、国内3カ所の認定施設のうちの一つで、重篤な心不全や肺高血圧症の患者さんが全国から紹介されてきます。例えば、慢性血栓性肺高血圧症という肺動脈にできた血栓が完全に溶けきれずに肺高血圧になる病気がありますが、バルーンを膨らませて、血栓を肺動脈の壁に押し付ける肺動脈形成術(BPA)というような難易度の高い治療を行っています。閉経前後の女性に多い微小血管狭心症という病気では、病態解明や診断、治療を求めて全国から患者さんが集まってきます。冠動脈の造影検査を受けても異常が見えないため、更年期障害や自律神経失調症と間違えられることが多く、診断が難しい病気なのです。こういった、当院でしかできない高度な知識と技術を必要とする医療を、地域の病院との連携のもとで、重症度に応じて提供しています。また、305カ所もの医療機関と独自に地域連携ネットワークを構築し、24時間体制で緊急時の対応、相談にも応じています。
社会のニーズに真に応える
―新しい医療の開発について教えてください。
現在、重症狭心症の患者さんに対する超音波治療法を開発中です。私が開発した衝撃波を用いて血管を増やす治療は既に世界25カ国で、約1万人の患者さんに使われていますが、超音波にこれと同様の効果があることを見つけ、治験を進めているところです。さらに、ある特殊な条件の超音波が、認知症に対して有効である可能性があることを動物実験で明らかにし、認知症患者さんに対する治験を実施中です。この他、1万人の心不全患者さんの情報を蓄積した世界最大級のチャート研究、衝撃波で不整脈を治療するアブレーションカテーテル、肺移植を受けた方の肺組織を用いた新薬の開発などにも取り組んでいます。
多くの研究開発を行っていますが、これら全てに共通しているのは、低侵襲であるということです。日本は2007年に超高齢社会に世界で真っ先に突入しました。中でも東北地区は、全国有数の高齢地域です。がんや認知症など、高齢化により増えてくる病気がいくつかありますが、心臓病もその一つ。社会が求める肉体的負担、経済的負担の少ない治療を東北大学発として生み出したいと考えています。
手を抜かず、自分に正直に
―日常診療においてはいかがでしょうか。
医療技術が発展し、循環器内科医としては、カテーテル治療というような最新の技術に頼りがちですが、患者さん一人ひとりの病歴をよく聞き、問診と身体診察を十分にするというのが、診療の基本中の基本です。東日本大震災では、停電により機器が使えず、五感だけを頼りに診察しなければなりませんでした。聴診器と血圧計だけで診断をつけて治療できるようにする、この基本は教室員にいつも強調して伝えています。
私は、受け持ち患者さんは自分の親だと思えとよく言っているんです。親だと思えば、検査や治療は必要最小限にするし、どんなに忙しくても朝と夜には会いに行くはずです。心臓病は、すぐに命に関わります。お天道様は見ているという言葉がありますが、絶対に手を抜かず、自分に正直にいることが大切です。現在の医療は、研究者と患者さんの貢献により進歩してきました。自分の技術を過信せず、謙虚に患者さん本意の診療を行う、そして臨床の疑問を研究に橋渡しする。臨床と研究の両輪を真摯に続けていくことが明るい医療の未来を切り開いていくと考えています。