医師の指導のもとで禁煙に取り組むことができる禁煙外来が注目されています。当院で喫煙対策をすすめる出江委員長が、禁煙治療の専門家、山本先生に禁煙外来について聞きました。
出江 山本先生は、さまざまな医療機関で禁煙外来をされてますが、当院の患者さんはどのような方が多いですか?
山本 大学病院ですから、他の診療科からの紹介が中心です。例えば、当院の呼吸器外科は禁煙しないと手術しないという強い方針がありますので、肺がんの患者さんであれば、主治医から勧められて受診するという流れです。最近では歯科も非常に熱心で、インプラントセンターなどからの紹介も増えてきました。色々な病気を抱えている患者さんが多いのが当院禁煙外来の特徴ですが、引き受けられないという患者さんはいないように頑張っています。
出江 何割の方が成功するのでしょうか?
山本 大体、7割くらいでしょうか。3カ月の治療の間に外来が5回あるのですが、全て受診された患者さんはほとんど成功します。自分だけで禁煙しようと思って成功するのはわずか1割と言われていますから、成功率は高いと言ってよいでしょう。
出江 保険制度も変わって、禁煙しやすくなりましたね。
山本 この4月から緩和されました。以前は、簡単に言えば、1日1箱吸って、喫煙年数が10年を経過しなければ対象にならなかったんです。もっと若い世代の禁煙をサポートする必要があることを私たちも働きかけて、ようやく、今回の診療報酬改定で保険適用が拡大されました。今は、34歳以下であれば喫煙本数や年数は関係なく対象になります。未成年であっても、家族の承諾があれば大丈夫です。
出江 禁煙治療を受けやすくなった訳ですから、私たち医療従事者も患者さんにもっと禁煙を強く勧めるべきですね。一方で、禁煙はハードルが高いという印象があり、強く言い切れない場合も多いと思います。分かりやすい例えとしてお聞きしたいのですが、空腹を我慢することと比べると、禁煙はどのくらい苦しいものでしょうか。
山本 それは禁煙の方が楽でしょう。禁煙は簡単なんです。成功した方は皆さん、こんなに楽ならもっと早く来れば良かったと言う方がほとんどです。苦しいというイメージが強いのは、独自のやり方で禁煙しようとして失敗される方が多いからなんですね。市販されているガムやパッチを使って禁煙を試みる方もいるのですが、タバコを吸いながらガムやパッチを使っていては成功しません。一方で、何十年も喫煙している方でも、治療が順調に進めば、吸いたいという気持ちはわずか3カ月で消えていきます。もちろん苦しい時もありますが、それを薬で和らげるので、皆さんが考えていらっしゃるより楽にやめられます。
出江 私は筋肉や神経の活動を専門としていますが、それらも臨床的に変化がおこるのは3カ月です。人の体が変わる、一つのスパンなのかもしれないですね。
山本 他の薬物でもその3カ月が一番失敗しやすいと聞きます。3カ月の関わりかたが大切なんですね。
出江 3カ月の間で気をつけていらっしゃることは何でしょうか。
山本 禁煙を始めた直後は、どうしても、吸いたいという気持ちが出てきますので、その時の対処法を具体的に決めます。例えば、水を飲む、深呼吸をする、歯を磨く、散歩をするなどです。1カ月、2カ月とクリアしていけば、3カ月経つと、体の中で変化が起こり、それ以上吸いたいというところまでいかなくなります。万が一吸ってしまっても、次の外来で原因と対応を考えます。友達につられて吸ってしまった場合は、協力を求めたり、一緒に禁煙することを提案します。
出江 煙の無い環境づくりには、周囲の協力は欠かせませんね。
山本 東北大学病院の禁煙に対する取り組みは大変素晴らしいと思います。病院で始めたことが、今では東北大学全キャンパスでの禁煙宣言につながりました。一方で、ルールを守れない方も必ず出てきます。地道に声を掛けて協力を促すことが大切ですね。
出江 病院の中に喫煙室をつくれば良いという患者さんからのご意見もあります。病院は禁煙そのものを推進する立場ですので、敷地内に喫煙室をつくるのは認めないという方針です。患者さんの健康を本当に思えば、禁煙は徹底すべきですね。
山本 喫煙所を作れば解決する問題ではありません。吸える場所が多ければ多い程、喫煙は増加します。敷地内で喫煙している治療中の患者さんも見かけることがありますが、医師や看護師も決して許してはいけません。嗜好品だから仕方がないという意見もありますが、タバコを吸うのはニコチン依存症という病気であることを、医療従事者、もちろん本人も認識しなければいけません。がんだけでなく、脳梗塞や他のあらゆる病気の再発予防に禁煙は必須です。
出江 大学病院としても、その考えを社会に対して示し、浸透させて行く役割があると考えています。
山本 禁煙治療は確立した医療で、今や禁煙できないという時代ではありません。最先端の医療を実践し、地域の見本になるべき大学病院が喫煙に対する考えを示すことには非常に大きな意味があると考えています。何よりも市民の健康のために、委員会の取り組みもぜひ続けていただきたいです。
出江 今後も気を引き締めて一丸となって禁煙活動を推進して行きます。ありがとうござました。