炎症治療し糖尿病防ぐ
歯科疾患実態調査(2016年)によると、日本人の成人の約7割が歯周病であるという深刻な状況に置かれています。しかし、歯周病であるにもかかわらず、自分がそうだと認識している人は、意外に少ないようです。
歯周病とは、歯周病菌により歯茎が炎症を起こし、最後には歯が抜け落ちてしまう病気です。歯周病の怖さは「歯が抜けてしまう」というお口の中のことにとどまらず、実は全身の病気の発症や悪化の原因の一つであることです。その代表的なものに糖尿病があります。歯周病と糖尿病には意外な関係があります。
粘膜が傷だらけ
糖尿病とは一言で言うと「血糖値が異常に高くなる病気」です。そのまま放置すると、何年か後に網膜症や腎臓病、神経障害などの恐ろしい合併症により、失明、透析、自律神経障害、足壊疽(えそ)など、日常生活や生命さえも脅かすようなことが起こります。最近の研究から歯周病は糖尿病を悪化させることが明らかとなってきました。歯周病と糖尿病は一見全く異なる病気ですが、なぜそのようなことが起きるのでしょうか。
中等度の歯周病患者さんの場合、歯茎(正確には歯周ポケット)の炎症の総面積は大体72平方センチで、これは何と大人の手のひらサイズに相当します。さらに、その粘膜は傷だらけの状態で、絶えず細菌にまみれています。その結果、体からさまざまな種類の「炎症性物質」が絶えず作られ、血流を通じて全身に運ばれているのです。この炎症性物質こそが、血糖値を低下させるインスリンの働きを妨害し、血糖値を上昇させてしまう元凶なのです。
正しい歯磨きを
糖尿病患者を対象とした研究では、重度歯周炎を患う糖尿病患者に歯周治療を行ったところ、血糖値の指標である「HbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)」の値が有意に改善することが示されています。歯周病の治療をすると血糖値が改善されることが分かってきました。このように、歯周病をきちんと治療し、予防することで、糖尿病のリスクを下げることができるのです。
歯周病の早期対策には適切な歯のメンテナンスが欠かせません。それには、歯医者さんで正しい歯磨きの仕方を教えてもらい、患者さん自身が毎日の生活の中でメンテナンスをしていくことが大切です。人生100年時代に向けて、引き締まったピンク色に輝く美しい歯茎と全身の健康を維持していきましょう。
河北新報掲載:2020年12月25日