【寄稿3】東日本大震災から10年、今、私たちが考えていること

2021.02.17

咬合回復科長
佐々木 啓一

歯学研究科では、東日本大震災発生直後から犠牲者の身元確認のための歯型記録に、多くの歯科医師を県内の検案所に派遣しました。歯科情報からの身元確認は、世界中で平時においても、災害時にも大きな威力を発揮しています。数カ月に及び延べ500人超が参加しました。また、歯科カルテからの生前情報のデータベース化も歯科医師の役割です。震災後に宮城県においてはこの1年の間でも新たに2つのご遺体の身元が、歯科情報を手掛かりとして判明しています。災害等の犠牲者が国際的になっている現在、歯科法医情報のデータベース化、そしてそのためには国際規格が必要となります。そのため私どもは、2013年からISO会議に参加し、NATO、Interpol、ANSIとの協議のもと昨年、初のISO規格制定に至りました。

また、身元確認活動とともに震災後、避難所へ歯科医療救護チームの派遣を継続しました。この時の経験、作成した口腔ケアのチラシなどは熊本地震、また近年の豪雨災害の際にも役立っています。私たちのこれら活動は、文部科学省の災害医療GPにおいて、医科と歯科との連携が一つの柱として位置づけられる基盤となっています。

もう一つの特徴的な事業に、乳歯の放射線被ばく線量測定があります。歯には形成時に放射性物質が取り込まれ、代謝しないで維持されます。これまでの報告とは格段の高精度での検出が可能です。震災後に形成された入試が3年前から脱落しているので、これから貴重なデータが収集されます。期待してください。

毎朝歯学研究科から歯科医師が宮城県警本部に集合、
ミーティング後に県内各所の遺体安置所へ向かった。(2011年3月16日)

避難所での歯科医療救護風景。
多くの方々が応急処置や口腔ケアを必要としていた。活動は7月まで続いた。

 

佐々木 啓一(ささき けいいち)
1956年宮城県出身。1985年東北大学大学院歯学履修課程修了。同高齢者歯科学講座助教授を経て、2000年歯科補綴学第2講座(現口腔システム補綴学分野)教授に就任。2009年から2010年まで東北大学病院総括副病院長。2010年から2020年まで歯学研究科長・歯学部長。2020年より東北大学副学長、共創戦略センター長。
11月24〜30日は
医療安全推進週間
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