老年科(学術研究)

教 授 荒井 啓行

教 授 荒井 啓行

教 授 荒井 啓行

研究ミッション

東北大学は、開学以来「研究第一主義」と「門戸開放」の理念を掲げ、人類の幸福と発展に寄与する「実学」を尊重してきました。この伝統・理念を積極的に踏襲し、「実学尊重」の精神を活かした新たな知識・技術・価値の創造に努め、常に世界最高水準の研究を創出し、その成果を広く国内外に発信しています。東北大学加齢医学研究所の前身は抗酸菌病研究所であり、太平洋戦争の開戦の年である1941年(昭和16年)に創設されました。当時の国民病であった結核の撲滅という明確な国家的ミッションのもとに誕生した附置研究所です。終戦から十年ほどたつと結核撲滅が現実の姿になってきました。そうした時期にスタッフの研究対象はしだいに「がん制圧」へと移って行き、さらに1993(平成5年)年には「加齢医学研究所」と研究所名を改めました。

「加齢医学研究」とは、生命体の一生、すなわち受精から発生・成長・成熟・老化のすべての過程を扱う時間軸に沿った医学・生物学研究と定義しています。今世紀の大きな社会的アンメットニーズである「加齢をベースに発症する認知症など神経疾患および難治性の癌の克服」が、本研究所の今日的ミッションです。目的達成のために基礎研究分野では、発生・分化・DNA修復機構などの分子メカニズムや生体防御機構の解明を目指しています。平成20年1月、この加齢医学研究所に老年医学を研究する新規の臨床系分野が誕生しました。老年医学分野です。荒井啓行教授のもと8名のスタッフによって構成され、東北大学病院では老年科診療を担当しています。平成21年6月には、加齢医学研究所は文部科学省から「全国共同利用・共同研究拠点」に認定されました。「加齢制御」「腫瘍制御」「脳科学」の3部門によって構成され、年間の外部資金獲得総額は11億5000万に達し、この2年間でインパクトファクターが10を超える雑誌への掲載は25編に及んでいます。

研究の概要

認知症研究とJ-ADNI

この20年の間にアルツハイマー病など認知症の病態の理解には著しい進歩が見られ、脳内蓄積物質を基本的な出発点として疾患の本質が論じられるようになったことは特記すべきことである。その中で中心的な流れが、今日のアミロイド仮説である。アミロイド仮説では、上流側にアミロイド、下流側にタウと神経変性が位置するものである。つまり、アミロイド前駆体蛋白から切り出されたアミロイド断片は凝集の過程で毒性を獲得しその結果タウ蛋白の異常リン酸化や神経細胞死などすべてのイベントを引き起こすものであり、アミロイド蓄積がコントロールされれば、アルツハイマー病そのものも制圧可能であろうと考えられている。70歳から物忘れが目立つようになり5年ほどは日常生活が自立していたが、75歳時には問題行動が出現しアルツハイマー病との診断を受けた患者を想定すると、この患者では、アミロイド蛋白の脳への蓄積(老人斑の形成)が始まったのは50歳前後、タウ蛋白のリン酸化(神経原線維変化の形成)とそれに伴なう神経細胞死を生じ始めたのが60歳‐65歳と予想される。年齢には多少の前後はあるにしても、アルツハイマー病ではアミロイド蛋白の蓄積開始から臨床的に認知症初期症状が出現するまでにおよそ20年ものタイムラグがあり、その間自らの脳にどのような変化が起こっているか自覚されることはないが、この期間こそが発症前診断や予防対策を考える上で大変重要である。そこで、アミロイドやタウが蓄積した状態(図1)を簡便にしかも感度よく検出する方法論を開発することがどうしても必要になってくる。その1つがアミロイドイメージングと呼ばれる新しい分子イメージング技術である(図2)。


図1 アミロイドとタウの蓄積

図2 アミロイドの蓄積の画像化に成功

その中で、Japanese-Alzheimer disease Neuroimaging Initiative(J-ADNI)は特に重要である。現在アルツハイマー病の根本的分子標的治療の開発が米国企業を中心に飛躍的に進んでいる。今日市場化されているsymptomatic treatmentの臨床治験は概ね6ヶ月程度で終了できるものであったが、今後開発が予定されているアルツハイマー病の進行を遅らせるためのDisease-modifying drugsの臨床治験では、十分な薬効を確認するには少なくとも1年或いはそれ以上の治験期間が必要になると予想される。疾患の病理像を反映し、その進行を追えるようなサロゲートバイオマーカーを開発しておくことは、長期に及ぶ臨床治験では大きな意義を持つことが期待される。このような考えに立って米国で2005年から発案・開始された観察式臨床試験が、Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)である12,13)。ADNIは米国、欧州、オーストラリアと本邦の世界4極で同一プロトコールを用いて実施される非ランダム化長期観察研究である。日本のADNI(J-ADNI)では、認知症医療に実績を持つ全国38施設の協力を得て、300名のMCIを3年間、150名の早期ADを2年間、150名の正常者を3年間追跡することが計画されている。研究の統括責任者は、東京大学の岩坪威教授である。研究の目的は、1) AD、MCI、正常高齢者において、MRIやPETなどの画像データの長期的変化に関する一定の基準値を作るための方法論を確立すること;2) 画像サロゲートマーカーの妥当性を証明するために臨床指標、心理検査、血液・脳脊髄液バイオマーカーを並行して収集すること;3) AD根本治療薬(Disease-modifying drug)の治療効果を評価するための最良の方法を確立すること の3点である。そのための観察項目として、1) MCIからADへのRate of Conversion;2) 全脳、海馬などのMRI measuresのRate of volume change;3) 血液・脳脊髄液バイオマーカーのRate of change;4) FDG-PETにおけるブドウ糖代謝のRate of changeを優先的に解析することになる。また、J-ADNIでは希望者にはアミロイドPETをベースラインから撮像することになっている。J-ADNIによって遅れに遅れた本邦の認知症医療のインフラの整備がやっと手に届くところにきたことの意義は極めて大きい。米国が治験効率やコスト削減の面からの熟慮と議論を重ねた結果「認知機能ベースからバイオマーカーベースへ」と大きくパラダイムシフトを図った以上、これを無視することは今後日本の医療にとって決して得策とは思えない。なぜなら、根本的治療薬の多くは米国の製薬メーカーの手によって開発が進んでいる一方で、今後の新薬臨床治験は国際共同治験(Global Clinical Trial)の形をとって効率化を計ろうとしているからである。J-ADNIではまず、杉下守弘先生によって認知機能検査日本語版の改訂がなされた。これはWorld Wide ADNIやその後の新薬国際共同治験において認知機能検査の相対的難易度の統一し、等価性を担保するものである。2008年、国立精神神経センターにおいて最初の患者登録がなされた。2009年12月の時点で約270名の患者が登録されている。その80&の被験者からFDG-PETに、44&からアミロイドPETに、また40&から脳脊髄液採取に同意を得ている。今後さらに登録者数の増加とこれらバイオマーカー採取の同意率の向上を目指し、国民からのアンメットニーズに答えたい。

嚥下機能と嚥下性肺炎研究

肺炎は死因の第4位を占め、その大部分は高齢者である。食べる機能の障害は嚥下性肺炎となって現れる。高齢者の肺炎の大部分が不顕性誤嚥をベースにした誤嚥性肺炎である。図3のように、嚥下機能の最も高位中枢であるとされる大脳基底核(及びその周辺の皮質)に血管障害や変性が生ずると、下位中枢である延髄の機能が低下。その結果、迷走神経知覚枝や舌咽神経知覚枝からのサブスタンスーPの分泌が低下する。サブスタンスーPの機能に支えられた嚥下反射や咳反射などの防御反射が低下するために誤嚥したものを効率よく「かき出す」ことができずに肺炎の発症に至ると考えられている。図4のように、不顕性誤嚥を予防する策としての薬物療法(ACE阻害薬、カプサイシン、アマンタジン、シロスタゾール、葉酸、半夏厚朴湯、クエン酸モサプリド、アロマパッチなど)、口腔ケア、食後2時間の座位保持、ワクチン接種(BCGワクチンおよび肺炎球菌ワクチン)などが知られている。


図3 肺炎発症のメカニズム

図4 嚥下性肺炎の発症予防に有効とされている手段

疫学研究

老年学あるいは老年医学研究の発展にとって貴重な示唆を与えてくれたものに、疫学研究があります。中でも米国における「Baltimore Longitudinal Study of Aging」は、老年期を老いの神話から解放し、老人に対する眼差しを変える役割を果たしてきました。我々は平成10年から、宮城県女川町における地域住民縦断コホート研究を行っています。また、高齢者の生活習慣病やうつと寝たきりや転倒との関連を解明する目的で、仙台市宮城野区鶴ケ谷地区における調査研究を公衆衛生学分野などと共同で行っています(寝たきり予防健診)。

共同研究機関

以下の機関と共同研究を行なっています。

  • 東北大学未来医工学治療開発センター(工藤幸司)
  • 東北大学公衆衛生学分野(辻一郎)
  • 東北大学農学研究科(宮澤陽夫)
  • 新潟大学脳研究所(桑野良三)
  • 福島県立医科大学(橋本康弘)
  • 島根大学医学部(橋本道男)
  • ペンシルべニア大学
  • イオテボリー大学(スウェーデン)
  • その他

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研究スタッフ

荒井 啓行 (教授)

大類 孝 (准教授)

古川 勝敏 (准教授)

沖永 壯治 (准教授)

小坂 陽一 (助教)

海老原 孝枝 (助教)

冨田 尚希 (助教)

山崎 都 (医員)

高橋 秀徳 (非常勤講師)

藁谷 正明 (非常勤講師)

大槻 真理 (臨床心理士)

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リンク

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